【第九回・参】瞳水晶
「…なんつーか…」
京助がボソッと言う
「何だ?」
迦楼羅が京助を見た
「…何でもねぇ…続きは?」
あぐらをかき頬に手をついた京助が言った
「…帰ってきた沙紗はいつもと変わらなくてな…おそらく沙汰と沙羅に心配されぬように振舞ったのだろうが…手は所々に火傷があって髪も少々焼けていた…」
「沙紗姉様…何があったのですか?」
沙汰が沙紗の手に布を巻きながら沙紗に聞いた
「火を使い少し…ありがとうございます沙汰」
布を巻き終えた沙汰に沙紗が笑顔で言う
「あの…沙紗姉様」
沙汰が沙紗の手を包むように自分の手を置くと沙紗を真っ直ぐ見た
「僕では沙紗姉様の力にはなりませんか? 僕は…」
少し首をかしげた後沙紗が沙汰の頭に軽く手を乗せる
「優しい子ですね沙汰…ありがとうございます」
二、三回沙汰の頭を撫でると人の気配を感じた沙紗が戸口を見た
「あ…迦楼羅様…」
沙汰が言う
「…も…;」
「も?」
迦楼羅が何故か何処となく恥じらう様な顔で【も】と一言言うと沙紗と沙汰がその【も】を繰り返した
「…もがどうしたんですか? 迦楼羅様」
沙汰が迦楼羅に聞いた
「も…も…ッ…;」
「桃ですか?」
沙汰がまた聞く
「戻られ…た…んですかッ;」
迦楼羅が言うと沙紗と沙汰が止まった
「…か…るら様?;」
しばし間を置いた後沙汰がどもりながらも迦楼羅に言う
沙紗はというとぽかんとした顔をしたまま動かない
「…どうしたんですか?;」
少し落ち着きをとり戻したのか沙汰が言った
「…別に…なんでもない…ですます;」
顔を引きつらせながら迦楼羅が答えた
「…変な話し方になってますよ?」
沙汰が言う
「なッ…!!; ワシはただ沙紗が偉そうな口調だというからだなッ!!;」
迦楼羅が怒鳴る
「だから…だな…その…;」
そして段々と声を小さくしていく
「…沙紗姉様が?」
沙汰が沙紗を見た
「…ッ~; 戻っているならばいいッ!;」
顔を赤くした迦楼羅が踵を返した
「…迦楼羅」
「なん…」
沙紗が小さく迦楼羅を呼ぶと迦楼羅が怒鳴るように声を上げて振り返った
「…今…」
そして何かに気付きハッとする
「ありがとうございました…」
沙紗が頭を下げて迦楼羅に言った
「え? え?; 沙紗姉様? 迦楼羅様?;」
ワケがわからない沙汰が迦楼羅と沙紗を交互に見る
「でも貴方がそんな口調だとかえって気持ち悪いですよ」
「な…ッ!!?;」
顔を上げた沙紗が言うと迦楼羅が阿呆面になった
「ね? 沙汰」
沙紗が沙汰に同意を求めた
「え?; …あ…はい…?;」
沙汰がワケがわからないままで同意する
「ッ~~~;」
言い返せない迦楼羅の顔が段々と赤くなっていく
「お前も同意するな! たわけッ!!」
顔を赤くした迦楼羅が沙汰に向かって怒鳴った
作品名:【第九回・参】瞳水晶 作家名:島原あゆむ