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異 村

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 少しずつ分かりかけたことがあった。この村が日本のあちこちにある平家の隠れ里の一つらしいということ。代々伝わった踊りは実は格闘技で、武器を持つ暇もなく敵に襲われた時のためのものであること。これは映画や小説などで知っていたが、なるほどと大げさに頷いて見せた。
 やがて末座に座卓が追加されて女性たちも席につき、盛り上がりを見せた。何か違和感を感じたが、それは子供の姿が見えず、声も聞こえなかったことだ。
 私は酒が入っていたし、どうしても疑問を感じたので思い切って子供の姿が見えませんねえと言ってみた。
 ほんの少し間があって座の会話が一瞬凍ったように止まった。私はこりゃ、タブーに触れたかなと思ったが、やがて村長が私に向かって言った。
「東京の人には当然不思議に思っただろう、ま、気付かぬならそれでもかまわぬと思っておったんだがな」

 私のことは皆(東京の人)と呼んでいたので、私は自分の名前が(東京の人)のような気分になっていておかしい気持ちだった。
 村長が話したことは、あの戦争、日本の長崎、広島に原爆が落とされて終わった敗戦のことだった。もともと人数が少ないこの村の若者と壮年までもが戦争で命を落とし、それでも戦後に僅かに残っていた幼児や小学生達も伝染病で命を落としたとのことだった。
 それであなたはどこの戦線にと聞かれ、咄嗟に父から聞いていた中国の土地の名前を言った。そして、あまり思い出したくないと付け加えた。村長も他のものも頷いているので、私はほっとした。やはりここは昭和三十年代の村なのだと確信を深めた。あとは新聞かカレンダーでそれと解る筈だ。酒が入ったせいか、そのことを面白がっている自分がいる。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川