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異 村

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 少しずつ訛にも慣れて、ある程度話が通じるようになった。通訳のようなことをした女性がイシとウシの中間のうなウィシィと名乗ったので、石井さんかも知れないなあとも思ったが、とりあえずイシさんと呼んだ。日に焼けた顔と少しのシワで中年であろうが、白い丈夫そうな歯が綺麗に並んでいて、もしかしたら三十代かもしれないと思った。
 イシさんは発音がちょっと違うけどまあいいやというような顔をして話を聞いてくれた。町に出るバスはどこから出るかその時間を訊ねた。

 イシさんの言葉は所々不明だったが、バスはこの小さな盆地から小さい山を越えた所にしか無いということを言っていたようだった。そして朝と夕方二回しか通らないと笑った。そこまでは十キロはあるという。他の者たちはそれぞれの話をしながら、ちらちらと私の方を見て、会話も聞いているようだった。明日だなというようなことを誰かが言って皆笑った。どうやらここから出られるのは明日になりそうだということだろう。私はふと思いついて携帯を取り出した。実家に電話して、車で迎えに来て貰おうと思ったのだ。通じない。よく見ると圏外だった。実家とはそんなに離れている筈が無いと思いながら何度見ても圏外だった。
 皆の視線が私の携帯に集まっている。私はこれは携帯電話だと説明したが、皆不思議な顔をしている。

イシさんが「村長さんが家に来て休んでいけと言ってるが」と私に伝えた。村長が私を見ている。私はその好意を受けるしか道がないなと思い、「じゃあ、おじゃまします」と言って頭を下げた。
 皆が歩きだした。何人かが私に話しかけてきた。解らないところは自分で補って、彼らは映画で見たとか、娘が行ったきり帰ってこないとか言っているようだった。私は違和感を感じながらそれらの話に相づちをうった。

 村長の家は他の家の数軒分はありそうな大きなしっかりした木造の家だった。まるでお寺か老舗の旅館かと思える凝った造りである。それに離れと倉とあり、戸が閉まっている納屋があった。庭には色々な花が咲いていた。村長が皆に色々な指示をして、女性はそれぞれ自分の家に戻り、支度をしているのかもしれない。男だけがそのまま村長の家に入ってきたことになる。どうやら臨時の宴会が始まりそうな気配だった。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川