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異 村

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 三軒の家の側を通ったがどこも同じ様子だった。道は少し離れた場所にある数軒の家のほうに向かっていた。少し小さな建物だが、造りからするとお寺だろうか、他の民家とは違う建物が見えた。よく見るとそこから傾斜のある土地に少しずつ間をおいて墓石が見えた。やはりお寺なのだろう。そしてお寺の前の草野球が出来そうな平地に人影が見えた。これでやっと現在地やバス便などを訊けるなと安心したが、なぜか奇妙な雰囲気を感じた。
 少しずつ彼らに近づいて行くと、男女が中年以上いや老人といった方がいい年齢であることがわかった。彼らは無言でゆっくりした動きをしている。妙な雰囲気は無言と妙な体操のせいだった。せめて音楽でもなっていたら、祭りで演じる踊りの練習だと思うのだが、と心でつぶやきながら私は近づいて行った。
 近くまで来て、その十数人の中の一人が短く何かを言って、その型を演じているようだ。そうだ太極拳に似ていると私は思い、立ち止まってしばらく見ていた。指導者と思われる人がちらっと私を見たが、そのまま動きは続いていた。私が感じたことは見た目の年齢以上に元気などという表現を超えて武道家たちという雰囲気をもっていることだった。

 この集落、多分七、八件の住人が全員でこれをやっているのだろうか。生計の基本は何だろうと辺りを見わたした。畑があって、他種類ということは自家消費分なのだろう。懐かしい小麦が青々と育っている畑もある。ふとめまいを感じた。自分が小学生だった頃に戻ったような気になって脳がパニックを起こした気分だった。
 魂が過去に飛び大急ぎで戻ってきた気分だった。心臓がどきどきしている。私はゆっくり呼吸を整えながら空を見た。太陽がかなり西の方に傾いている。
 どうやらこの体操か演舞かというものが終わったようだ。指導者かなと思った老人が何か私に向かって言っている。私はそのイントネーションが懐かしいと思ったものの、意味が分からなかった。私は東京に出て三〇年ぐらい経っていたから、この土地の訛も少し忘れてしまっている。まるで外国語だと私は感じた。彼らの中で一番若いのであろう女性が通訳のように私に質問してきた。それも全部は分からなかったが、どこから来たのかと言っているようだ。私は東京から来たということと、生家の地名を言った。
 女性が顔を上下させ頷いて、解った仕草をした。それから通訳しようとしたが、他の者も地名だけは通じていたらしく、ほーという声と、それぞれが訛ある言葉で話し始めた。
通訳の女性がなぜ、ここにいるというようなことを身振り手振りをいれながら聞いてきたので、大盛山とそこから下りてきたことを話した。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川