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異 村

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 モノクロの風景と小さな橙色の星が揺れるのが少しずつ治まって、やっと私は深呼吸をして前を見た。石造りの祠が少し斜めになったような気がしたが、下手にいじってどこか欠けてしまってはいけないので、ごめんなさいと言ってその場を去った。

 細い道をかなり歩いたが、民家は無かった。どこかで水音がする。斜面の下方を見ると木々の生えぐあいから沢があるのだなということが分かった。少し広くなった道を歩いて行くと途中から脇に逸れる道が見えた。どうやら沢に向かっているようだ。私はその道を選んで歩き出した。歩くというよりは滑り降りるというような場所もあって、どんどん下方に向かって行った。

 音はすれども沢には辿り着かず、大盛山の海抜から想像するともう麓の平野に着いてもいい頃なのにと思いながら歩いた。時々蛇行しながら下に向かっている。気がつくと野鳥の声も、もちろん人の声もしない。木々の密度が濃くなって少し薄暗くなってきた。もう夕方なのではという思いもして、携帯を取り出し、時間を確認した。ついでに着信を確認したが何も無い。もっとも圏外のままだったが。頂上でお昼を食べたのが正午前、時刻は午後2時ぐらいだった。頂上から引き返したら完全に麓に着いて居る時間だ。ゆるやかになった道が続くようになったが沢は見えない。
 私はとんでもないことをしているのではないかという不安に襲われた。急に身体疲れた気分になって、また身体がかっと熱くなった気もした。立ち止まり、スポーツドリンクを飲んだ。思い出してお菓子を食べた。

 エネルギーを補給したせいか少し元気になった気もした。耳を澄ますとかすかに水の流れる音がする。その音は現在下って行く前方からだ。とにかく道があるのだから行くしかないと思い直し、歩き出す。

 前方の樹々の間から空が見えてきた。傾斜もあまりなく、膝がほっとしている。やがて林を抜けて平地に出た。沢の音はもう聞こえてこないが、小川ではないかという灌木の列が見えた。
 道幅が広くなり小川沿いに続く所まできて、数件の集落が見えた。やっと道に迷った不安から解消された。建物が次第に見えるようになった。私は懐かしい思いにかられた。瓦葺きの屋根が小さい頃見慣れた農村の風景そのままだった。
 しかし、あたりは静まり返っていて人の気配が感じられない。手入れされた庭や干してある洗濯物から廃屋ではないことがわかる。真夏なら昼寝ということも感じられるが、春であるし、だんだん夕方に近づいている時間帯だった。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川