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異 村

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 木の根にしがみついたり、細い木の枝につかまりながら上へと向かった。どこかで沢に向かいたい、多分飲めるだろう水の誘惑が強くなって行く。幸運があれば沢でなくとも湧水に出会えるのだがと乾いた喉に唾を送り込みながら思う。疲れを覚え、私は木の根に腰を下ろした。野鳥の鳴き声が聞こえ、心地よい風が頬を撫でる。私は足を伸ばし大地に大の字になって緑の葉から透けている空を見る。

 人の声がして、私は耳を澄ます。うとうとと眠っていたのかもしれない。わらびということばと村長に怒られるという言葉が聞こえ、私は緊張する。このままじっとしていようと思った。やはり私を幽閉しようとしているのかもしれない。ここで寝たふりをして、もし見つかったら道に迷ってしまったと言い訳しようと腹をくくった。
 どうやら山道の数箇所に人を配置しているようだった。村長独自の判断でしているのか、村の合意か解らないが私が逃げようとしたと思っているのだろう。単に道に迷ったのだと判断したなら大声で私を呼ぶ筈だった。私は彼らが私を働き手、そして女性を与えての幽閉とを狙っていることを確信していった。
 村人の足音が近づいて来て、私は息をころし動かずにいた。やがて足音が遠ざかって行った。ちょうどいい休憩になって、疲れはとれている。私はなるべく音をたてないように上へ登り始めた。

 やっと尾根に着いたが、現在地はもう分からない。木を透かして見覚えの風景があるか確かめる。無い。尾根を上か下かと迷ったが、自分の感覚を信じてさらに上へ上って行く。まだ太陽は真上にあった。かすかに獣道のようなものがあって、歩くのが楽になっている。
 急な坂があって向こう側は見えないので、どこかの山の頂上に出るのだろうと思い坂を登り始めた。息をきらしながら坂を登り切って四方へ目をやる。しかし、何も収穫に思えるものは見つからず、少しだけ下った先にまた登り坂が見えた。野鳥の声が聞こえるが、人の声も足音も聞こえない。彼らはもうあきらめただろうか。

 この坂を上ればもう見晴らしがいいのだろうと思える所を数度登った。いずれも落胆させられたが、やっと見覚えのある所、あの奇岩が見えた。しかし、かなり離れてしまっていた。尾根沿いに行くにはかなり時間がかかりそうだった。直線に一度山を下り、そして登って行くことに決めた。奇岩のある所までの途中に、何か目印になるものがないか目を凝らしてみる。木の種類が違う場所に気がついた。松と杉の針葉樹が多いのだが、小さな平地のような場所があり、そこは広葉樹だった。何かがありそうに思えた。もしかしたらあの祠がある場所かもしれない。私は昨日の記憶をたどる。祠に気をとられ、周りの木のことは記憶に無かった。しかし、小さな平地ではあった。位置的にもそれは間違い無いと思われた。私は急に疲れがとれて元気になった気分だった。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川