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セブンスター
セブンスター
novelistID. 32409
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秘密の海岸

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脈絡の無かった淡い幻想が打ち砕かれたのは、僕にとってあまりにも急なことだった。
 自分にはなんの下心も無いと思っていた。だけど全部、嘘だったんだ。人伝にその日が決まった彼女の話を聞いて、あっけなくそれに気付かされ、あっけなく逃げ出して、あっけなく自分から彼女を遠ざけた。

 言いようの無い胸の淀みを覚えながら、その日まであと一週間を切った日曜の午後。
 まだゴロゴロしていた僕は、揺れるカーテンの向こうの青空に、彼女とよく歩いた、夕焼けが綺麗なあの海岸を思い描いていた。
 突然、彼女からのけたたましい着信音が鳴り響く。
 驚いて飛び起きると、嬉しくて切なくて、顔をしわくちゃにして泣きたいような気分が、急激に僕を襲った。
 だけど、すぐ我に返ったように、大きく、深いため息をつく。
 ああ、そうか。僕はいつもこうやっていたんだ。いつだって、どんな時だって、本心を見せようとしない。
「弱さじゃないよ。私にはわかってる」
 そんなたび、僕の全部を見透かしているかのような、彼女の優しい言葉を思い出す。
 きっと、二人きりで話すのもこの電話が最後になる。
 
 はずだった。

「今から、会えない?」
 突然、そう提案してきた彼女。
 その声はとても寂しげで、僕は電話で話す前よりもっと空しい気持ちが大きくなった。だけどそれ以上余計なことは考えず、やがて、振り絞るように答えた。
「うん。じゃあ、家まで行くよ」
 何が起きたって、答えは決まってるんだ。どこで会ったって、そう、例えばかつて通い慣れた、君の家でだって。
「この前は、あいつに悪いからもう家の中には入らないって言ってたのに?」
 この期に及んでの彼女らしい憎まれ口が、僕により冷静さを取り戻させる。
「最後だからね。特別さ」
 こんな強がりも、もう言わなくていい。
「悲しいことばっかり、言うね」
 彼女の言葉に、思わず口を開きそうになる。
(そうしないと前を向けない弱い奴なんだよ、俺は)
 言いたいけど言えなくて、言ってしまえば楽になるかもしれないのに、僕は頑なにその言葉を飲み込んだ。本当の素直さがなんなのかなんて、もうとっくにわからなくなっていた。
「…待ってる」
そう言ってわずかな沈黙を破ると、彼女は僕の返事を待たずに電話を切った。

 タバコに火をつけながら、ふと、窓に目をやる。外は、いつの間にか雨。
 初めて彼女の家に行ったのは中二の夏、二人きりで行ったプールの帰り道に突然夕立ちに襲われて、あわてて中に逃げ込んだんだっけ。
 あの頃からずっと僕らを見下ろしていた空が、代わりに泣いてくれているんだと思ったら……。
 少し、気持ちが楽になるような気がした。
作品名:秘密の海岸 作家名:セブンスター