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ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)

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舞台裏につくとクライマックスだった。仮面をつけた蒲生と美香が抱き合って見つめあっている。蒲生は情熱の言葉をかけていた。
「この場面が人気あるのよねー。許されない恋に忍ぶ仮面。本番でこの後暗転して、レナードが空からナイフ持ってリッカルドを襲うの!ワイヤーアクションも話題よ!」
さすが業界人。詳しいわ!奈菜は智美に感心した。智美は真顔に戻って
「全部受け売り何だけどね。」
といって照れ笑いした。なーんだ。ちょっとがっかりした奈菜だった。正面の観客席にぽつんとしている、宗像のつまらなそうな姿が目に入った。
(あいかわらずだなー。やる気がなさそうに・・・。そのくせ、何で現場指揮するんだろ?そういえば変ね・・・)
宗像は現場のボスだ。べつにロケは他の者にやらせればいいのだ。奈菜には不思議だった。

公演は十四時。どうやら満席のようだ。ざわざわと舞台裏まで聞こえる。
奈菜は大忙しだった。開演前の役者の表情を舞台裏で撮り続けた。そこへレナード役の若狭大空が来た。まだ秘書役で、レトロな役人風にスーツを着込んでいる。それぞれ単独インタビューは予定にあるが、現場の雰囲気も大事だ。奈菜は寄っていった。
「レナードのワイヤーアクションに注目されますが、本番前に一言意気込みを!」
そう声をかけられた若狭は少し唇が歪んだ。
「これだよ。少しは気を使えよ。おれは本番前にマスコミ入れるのに反対だったんだ。」
奈菜はぱっと引いた。ほかの役者の愛想が良かっただけに、この若狭の態度が際立った。
「それを宣伝になるからって座長が・・・」
と言いたいこと言って答えず去っていった。
「……」
佇んでしまった奈菜に米ちゃんが言った。
「カットすればいいよ。」
するとどこにいたのか宗像がそばにいた。
「奴は使えねェな・・・」
一言だけ言って去っていった。
「そうよ。こんなことよくあるから、気にしないで・・・」
動揺を隠せない奈菜を智美も励ました。

舞台は進行しクライマックスのリッカルドとアメリアの愛のかたらいだ。
「ああ、私は夜になると君を思い、身もだえしそうだ。何故君は私の妻ではないのか・・・」
ロケ隊は迫真の演技を舞台袖で見ていた。もちろん収録は続いている。
「さすが楠美香ね。蒲生の演技に負けてないわ!」
智美が感心している。あまりの悲しい愛にこちらまで涙が出てきそうだわ。苦痛にゆがめる唇、大きな印象的な白いドレスがねじれ、体までその葛藤に身もだえしている。無言なだけにその言葉にならない苦悶が伝わってくる。そうそう出来る演技ではない。なるほどこれは一つの愛の表現でアリだわ。
暗転した。アメリアは消え、リッカルドはスポットライトを浴びかなわぬ恋に悶絶していた。大きな手を広げリッカルドは叫ぶ。
「アメリア!ああっ!私はどうすればいい!諦めたくはない!」