ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)
「大丈夫。九鬼さん、本当に出来た大人だから・・・」
と智美が耳打ちした。はたから見ても奈菜はがちがちに固まっている。ジョニーも
「こんな感じよ。後からロケ隊が出発するから、用意して!」
と言って向こうへ行ったしまった。
「そうね。わからないことは、その都度あたしが説明するから、ひとまず控室にいきましょう。」
智美は固まった奈菜を促した。ようやく緊張が取れた奈菜は
「そうね・・・」
といって智美について控室に向った。心なしかふらついている。興奮が過ぎたのだった。九鬼みたいな知的な男性好みだな。案外楽しいかも!とちょっと気分が良くなった。ともかくあこがれのTV局だ。こんな華やかな仕事など夢のようだ。出る人、しゃべる人は有名人なのだ。今から訪れる日々に胸が熱くなる奈菜だった。たまたま人気レポーターの穴に、売り出し中の自分が充てられ、夢心地のシンデレラの様な気分だ。でもこれは現実。酔って、めまいでも起こしそうだった。
控室についた。メイクのできる大きな鏡、大きなソファー。ちょっとした芸能人だ。しかも自分の為に用意されているというのがうれしい。
「自由に使ってもいいわ。時間になったら呼びに来るから、メイクアップしておいてください。」
中にはメイクさんもいる。部屋には感動したが、少々聞きたいこともある。彼のことだ。
「ねぇ、聞いていい?」
奈菜の質問に智美は表情を変えない。
「チーフディレクターのムナカタさんのことだけど・・・」
宗像の事を聞くと少々智美の表情が曇った。
「ああ、宗像さんね。彼、ああいう人なの。あれでも結構キレ者って話。スポーツも勉強も出来るのよ。おまけに企画のキレも鋭いよ。ただね・・・」
そりゃ、それじゃなければあの若さでチーフに上り詰めるわけがない。どう見ても三十歳前半だろう。人気番組となればなおさらだ。智美が顔を近づけた。
「どうもあの性格がね・・・。悪くはないけど、あのぶっきらぼうなのは頭に来るのよ・・・。気をつけなさいね。ロケ隊でも空気読まないから!」
あんまり迫力で迫るからちょっと押された。
「ははは・・・そうね・・・。」
イケメンのやり手の青年の、唯一の欠点という事か。おしいなー。だまってりゃ、さいこーなタイプかもってやつ?智美はまだ性格分かんないけど、今日から始まるテレビライフは刺激がいっぱいありそう!
作品名:ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件) 作家名:藤居