ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)
「そうです。この場合同じ衣装が2着要ります。当然衣装は一着なので何かで工夫しないといけません。そこでそれまでの衣装を全て切り刻んでダメにします。避難していた予備衣装に自分の発注したドレスを紛れ込ませます。」
「なるほど、そうすれば2着目で演技できるわけか。」
「もう一つ意味があります。それは切り刻んでこのドレスの原型を壊すことを不自然にしないことです。同じ衣装があったら疑われますからね。それに処分もできません。同じ切り刻まれた衣装として、ほかの衣装に紛れさせることで、鑑識などの目をくぐりぬけます。これらは事件の証拠として徹底的に調べられますから。こうでもしないと無理でしょう。」
「二着目が出た以上、仮説の裏付けになるわね・・・」
初めて紅刑事が同意した。」
「この刻まれた美香さんのドレスを、楽屋荒らしの残りとして守衛室に持ってきた人物がいます。それは望月さん、あなたです。今申し上げたとおり美香さんの代役が終わり、処分として持ってきたわけです。しかし、部屋は綺麗に元の姿に戻されていました。片づけに参加していないあなたの指紋が検出されたら・・・」
「十分証拠と言えるわね・・・。予備というなら望月さんが触れる機会はないのでしょう?」
「望月君は衣裳係ではない。予備ならなおさらだ。」
紅刑事の言葉に本庄が太鼓判を押した。
「付けくわえると、若狭さんの飲み物に下剤を入れたのも望月さんでしょう。彼の体調を崩すことで、ワイヤーアクションを遅らせることになりました。マグカップか、排水溝を調べれば成分が出るでしょう。」
動機も手口も明らかにされ、香苗はため息をついた。
「もういいわ。その通りよ。演技は完璧だった。計算外は変なレポーターの出現かな。」
犯行をほのめかす言葉に全員息をのんだ。
「この世界は受賞者だけに注目が集まるわ。未来の夢のため、必死に主役を射止めようと、演技に磨きをかけたわ。ところが、本番前日のリハで、ヒールのかかとが折れたの。その時足を痛め、主役と脇役を入れ替えられたの。当然、美香と入れ替わることになったわ。痛くて演じることができなかったの。たった一度、入れ換わったことが・・・ふふふ・・・こんなに人生を変えるとはねぇ。ヒールを見たら明らかに人の手で切り込みがあったの。美香を疑ったけど、残念ながら証明など出来なかった。」
皆は静まり返って香苗の言葉を聞いていた。
「わたしはリベンジとして卒業後、この劇団に入った。舞台スタッフとして。そこの探偵さんの言うとおり受賞歴のない私を役者として使ってはくれなかった。でも、きたるオーディションに向け、必死に練習だけは続けた。ところが!」
急に声を荒げた。
「あの過去がよみがえったのよ!座長が美香を女優として招いたのよ!そしていとも簡単にアメリヤの役におさまったっ!」
そう叫ぶと肩を落とし、ため息をついた。
「楽屋に呼ばれ会った時は、立場の違いは歴然としていた・・・
作品名:ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件) 作家名:藤居