ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)
「今回の公演の配役を決める時、楠君がアイドルで人気があるので採用したのではない。たぐいまれな才能にほれ込んで私が頼みこんだのだ。そんな才能がおいそれあるとは思えない。私の劇団にそんな人物はいない。」
確かにそうなのだ。この劇団にはいないので美香をスカウトしたのだ。
「それなら私も知ってる・・・」
智美はつぶやいた。
「誰も知らないし、それで誰からも注されない真犯人よ。」
「じゃあ、誰だよ・・・?」
きょろきょろしながら若狭がつぶやいた。奈菜の目がきっと光る。そして指を刺した。
「それはあなたよ!望月香苗さん!」
皆がえっと動きが止まった。あまりにも意外な人物だ。
「ちょっと待ってよ!望月は役者でもないぞ!言い方は悪いが役者ですらない!」
本庄が叫んだ。
「そう!だからノーマークなのよ。けど、役者じゃないから出来ることもあるの。」
「そんなばかな!」
そこここで声が上がった。
「バカ言わないでくれない?さっきからバカげた妄想繰り広げるけど、何の証拠もないじゃない!もう付き合いきれないわ!」
無言に見下ろす奈菜は透明なビニール袋に入ったものを後ろから放り投げた。
「・・・これは?」
蒲生が見た。
「白いぼろきれか・・・?」
若狭も分からず首をひねる。
「楠美香さんの衣装よ・・・」
奈菜は静かに言う。一同衝撃を受けた。
「美香なら衣装を着ていたぞ!ここにあるわけがない!」
皆が驚いた。
「そう、あるわけない衣装よ。」
だんだん静かな口調になる奈菜はかえって真実に近づく雰囲気を醸し出す。香苗は表情があからさまにかわってる。
「正確に言うと、舞台で演技していた二人目の『楠美香』の衣装よ。あの沈黙のシーンを演じることによって美香が生存していると思いこませたの。無言をいいことに、殺害した美香の代わりを演じたんでしょ?背格好はそれほど違いはないし、何しろ仮面で顔は隠れるし、体格は大きなドレスでごまかすことも可能・・・」
」
「しかし、望月君が楠君の代役できる演技力があるとは信じられん!」
作品名:ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件) 作家名:藤居