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ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)

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「それが、昼の後、急に腹の調子が悪く、合間にトイレに行ってたのですよ。本当です。」時には体調不良があるかもしれないが、都合のいい話だ。奈菜はそう思った。傍観者として一番あやしく思った。
「いいでしょう。それではもう一つ伺いたい。」
紅刑事は任意の事情聴取ではなく、取り調べのように聞いていた。
「あなたは楠さんに迫っていたそうですね。でも蒲生さんと不倫を知った・・・」
この質問というより挑発に若狭の顔色が変わった。
「ちょっと待って下さいよ。想像でしょ?なんで俺が美香を殺さないといけないんだ?それに証拠は?」
「あなたの袖のボタンどうしたんです?」
見るといつの間にかボタンが取れている。レナードとしてアメリアとケンカの場面で組み合ったのだ。すでに沈黙の演技に入っていた時だ。よくあることだが、それが何か・・・?
「亡くなった美香さんが握ってたのですよ。」
これには衝撃を受けた。演技の筈が美香はなぜ本気で引きちぎったのか。これでは犯行時抵抗して引きちぎったことになる。若狭の顔が真っ青になった。
「いいですよ。ありがとうございました。」
事情聴取は終わり結論を出すまで関係者は待機させられた。その間に奈菜は現場であるワイヤーアクションのポイントに行った。5メートルほどの高さの区切られた空間でちょっと降りれば舞台袖になる。暗幕が垂れ下がり、わりと死角になる場所だ。ここで奈菜は違和感を覚えた。確か暗転して舞台に下がるのは向かって左だ。この劇場は舞台に上がるのは右手、下がるは左手と決まっているそうだ。下がってから裏の通路を通ってくるにも2、3分はかかる。しかもあのドレスではスタッフが気づかない筈もないし、第一それから首を絞める時間などない。初めて奈菜はおかしいと思った。しかし、あの刑事さんは若狭があやしいと睨んでいる。もし、若狭の言う事が本当なら・・・。
すぐに紅刑事のところに向った。
「紅刑事、ちょっとお話が・・・」
ロケスタッフもまだいる舞台上で奈菜は紅刑事に声をかけた。紅刑事は無表情だ。
「遺体のあったところ見たのですが、どうも変です。舞台を下がった左手からでは時間的に不可能です。」
奈菜は真実と思って言っているが、紅刑事の反応は鈍かった。
「真っ暗なんだから、証明できないでしょ?犯人が右手に行くよう誘導したかも知れないじゃない。」
睨みあった奈菜と紅刑事だったが、後ろから引っ張られた。
「・・・わっ!」
見ると宗像だ。引っ張られ袖の奥まで行った。まさか宗像がこんなに入り込むとは思わなかった。いつもの冷めた顔で
「本当と思うなら自分でつかんでみろよ。すっぱ抜けっ!」
すっぱ抜き!芸能レポーターのある意味勲章だ。奈菜は熱い物を感じた。
「うんっ!」
この男意外と熱い人じゃない?意外な一面を見た思いだ。