ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件)
「しかし、内部、しかも楽屋の情報は基本的に極秘です。いきなり来て出来る犯行とも思えませんし、外へ目を向けるのが犯人の思惑かもしれない。」
座長は終わり、次は主役の蒲生にかわった。先ほどは違って紅刑事の目が鋭い。
「私はずっと舞台に立っていました。」
「けれどもレナードがリッカルド暗殺企てる場面では、蒲生さんも楠さんも抜けていますね。時間にして何分ですか?」
「衣装替えですよ。舞台では場面に応じて衣装が変わるんです。」
「大変な時間がかかるのでしょ?」
「それは見た目です。マジックテープで着せ替えは物の数分です。その間衣裳係がつきっきりで犯行時間など存在しません。」
確かに役者はすぐに出番で殺人の暇などない。
「衣裳係には真鍋に事情を聞いてあります。それでもすぐに来なかったことがあったそうですね」
「・・・トイレですよ。ものの数分ですよ。」
「いいでしょう。でも楠さんが直前まで生きてた目撃証言があります。その時舞台にいたあなたのアリバイはあるわけですね。一つ聞きたいことがあります。」
終わりかと思ったときに紅刑事は蒲生に追加の質問をぶつけた。蒲生は明らかに動揺した。
「あなたと被害者の間に、何かトラブルはありませんでしたか?」
「いや、別に・・・」
「トラブルがあるなら、共犯がいればかえってアリバイになるわけですね。ありがとうございました。」
その答えは奈菜の方が知っていた。蒲生は楠と不倫している噂があったのだ。それで蒲生が楠と別れたがっているとも言われていた。もちろん噂だが・・・。別れ話がこじれ、アリバイのはっきりしやすい、演劇中に手にかけたかも・・・!次に若狭が呼ばれたが、どうも表情がさえない。
「若狭さん、あなたは着替えの途中だったそうですね。」
「そうなんですよ。だからアリバイは・・・」
「いえ、問題なのはあなたと楠さんの両方が居なくなった時間です。それは発見される5,6分しかないのです。それ以前ならリッカルドのニ十分にわたる独演があります。しかし、そのあと楠さんが演技しているのです。」
(確かにその流れだな・・・)
聞きながら奈菜は想像を膨らませた。
「しかし、殺害は首を絞めたことによる絞殺です。ワイヤーはただ吊っていたことが分かりました。人を絞殺するのは不可能ではありません。衣裳係に聞くと、発見直前に急いで衣裳部屋に飛び込んだという証言があります。どうしたのですか?」
若狭はびくっと動いた。明らかに動揺している。一瞬の筈だが彼には長い時間考えたのだろう。
「・・・腹をこわしていて・・・」
「・・・?公演中にですか?誰の証言も取れませんでしたよ。」
作品名:ピュワ・アイズ(人気女優殺人事件) 作家名:藤居