真実を纏う蝶
やっと煙幕が晴れた。しかし、額縁の絵は無くなっていた。額縁からは裏の壁が見える。
蟻塚「くそっ!やられた!」
警官隊が騒然となった。
蟻塚「奴はキャンバスを抱えている。美術館の出入り口を封鎖!全員の手荷物チェックをしろ!」
代わりに怪盗ミスター・シーフの犯行声明が額縁の上に貼られている!
(我が魂を取り戻した。お疲れ様!)
蟻塚と三沢が驚いた。
蟻塚「やつの犯行声明のカードだ。本物だ!ひとをコケにしやがって!絶対にがすんじゃねぇぞ!」
警官「はっ!」
さすが日本の警察は優秀だ。すでに館内外で捜索を始めている。あげはは冷静に周りを観察する。
あげは(画の周りに変化はないわ。まず愛さんは館長にすがって泣いている。さっきの絵の撤去のための台を持っているわ。館長・真田さんに所持物なし。事務長長沢さんはちょっと離れているわね。ガラス越しに外の警官を見ている。同じく所持物なし。三沢さんは壁紙持ったまま呆然としているわ。・・・)
蟻塚「皆さんそのまま!チェックします!」
長沢「必要ないでしょ。」
蟻塚「しかし、絵を所持しているかもしれない。」
長沢「刑事さんは絵が学生さんの水彩と混同しているようだ。ここの絵はカンバスに描かれた油絵。一瞬で隠せるものじゃない。」
蟻塚「……」
長沢「大きさはF三十号の横です。大きさは七ニ七×九○九です。布が木枠に包み張りされています。そんな大きな物を持っていると思いますか?」
長沢の迫力にたじろぐ蟻塚
蟻塚「絵のことは分かりませんが・・・確かにそんな大きな物を持っているわけはない。しかし、短時間に逃げた人物もいない。あの赤外線カーテンに触らずどうやって?」
あげは「赤外線は無効になっていたんじゃないかしら?赤外線は煙に弱いイメージじゃないの?」
長沢「それは違うよ。赤外線をガリバーの巨人に例えると、煙の粒子は小人だ。あの時、赤外線は有効だった。」
あげは「でも人はくぐれる隙間はないわ。十センチよ。手も入らないわ。それをくぐりぬけたってこと?」
蟻塚「そうなるな。それにこの先は行きどまりで、逃走するなら我々の方に来ないと無理だ。」