小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 


「何すんだよ」
彼の声が背後から聞こえた時、私はそのネックレスを遠くに投げた。
街灯に一瞬キラッと光ったが、もう次の瞬間にはどこにあるかわからなくなった。
私は窓を閉め、カーテンも閉めた。
振り向くと、彼が私を見つめていた。
「…いいのか?」
「当たり前じゃない」
「気に入ってたんだろ?」
「でも…いいの」
「俺のせいか?」
「そんなんじゃない!」
思わず言葉が強くなった。
「そんなんじゃない…」
私は合わせたバスローブを両手で掴み、俯いた。
沈黙が重かった。
でも元はと言えば私が悪い。
彼と会うのに、あんなネックレスをしてたから…そうじゃない、前の恋人と別れた時に「気に入ってるから」いう理由で捨てなかったから。
未練があって捨てなかったんじゃない。
でもそれも、言い訳にしかならない。
「ごめんなさい…今日は、やめよう…」
こんな状態で、彼と体を重ねる訳にはいかなかった。
さっきまで、他の男と一緒に買ったネックレスを付けていた体では…。
「…ごめん」
「貴方が謝る事じゃないわ…」
私はそのままその場に座り込んだ。
また沈黙が流れる。
「…シャワー浴びてくる…貴方も何か着て…体が冷えるわ…」
彼の返事を待たずに、私はバスルームへ駆け込んだ。

勢いのいい熱いシャワーで、私は自分の体にまとわりついたすべてを流そうとした。
さっきの会話も、窓から放り投げたネックレスも。
でも、彼に不愉快な思いをさせてしまった事は流れていかなかった。
さっき一瞬見た、彼の悲しそうな表情がよみがえる。
そこで胸に痛みが走った。

私は彼を傷付けた。

さっきからわだかまっていた事が、明確な言葉になった。
私はシャワーの流れる中で、床に膝を付き、大声で泣き出した。
私は彼を傷付けた。
後悔と、彼を失いたくないと言う思いが混ざって、私はその場にしゃがみこんで泣いた。
バタンという乱暴な音がして、バスルームの扉が開いた。
その音に驚いて振り向くと、下着姿の彼が血相を変えて立っていた。
「どうしたんだよ!」
「私…ごめんなさい、私、貴方を…」
その後は言葉にならなかった。
貴方を傷付けた。
謝らなきゃいけないのに。
謝っても許してもらえなくても当然だと思うけど…謝らなきゃならないのに。
「突然お前の大きな声がしたから…何があったのかと思った」
彼がシャワーを止め、しゃがんだままの私を抱き締めた。
私は腕の中でもがいた。
「離して…私、貴方にこんな風にされる資格ない…」
「ダメだ」
彼の腕が、ますます私をきつく抱く。
「だって、私は貴方を傷付けたの…貴方と二人で裸になった時に、前の恋人と一緒に買ったネックレスなんか付けてて…不愉快でしょう?…ごめんなさい……謝って済む事じゃないのはわかってる…でも…」
「…傷付いたか、と言われたら確かにそうかもしれない。…でも、だから何だ?お前はそれを自分の手で捨てたのを俺は見た。それで十分だよ」
「でも!」
苦しいぐらいに抱き締められた。
「俺はお前を離したくない。…ただ気に入ってるだけ、って言われたネックレスの過去に嫉妬したぐらい……でも、お前は俺と離れたい?」
「…嫌…」
彼の背中に腕を伸ばし、私も彼を抱き締める。

作品名: 作家名:いおり