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オラガナイザー

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 その中田派でも最大実力者として知られる青山政調会長が、Dに頭が上がらないのは党の7不思議と言われていた。青山は高齢の割りに美男子で知られていたが、実はホモだったのだ。本来の自分に戻るため週に一度ほど女装してオカマバーでアルバイトしていた。だが美男子とはいえ所詮、年増。男が釣れることは年に1度あるかないかで寂しい思いをしていた。そんなある日、Dが客として現れたのだ。
『俺はなー、人間の器だけは誰にも負けない。大統領にだってなー。だからオカマだってぜんぜんOK、ウエルカム!』
などと大騒ぎしていたDに青山は、自分を悟られまいとしながらも興味を憶えたのだ。
『これだけ化粧で化けてればどうせ分かりっこない。少しからかってやれ』
青山とDの派閥は長年の敵対関係にある。あわよくばDの派閥の弱点を握れるかもしれないなどという姑息な考えも浮かんだ。
『あら、どこかで見た方だと思ったらよくTVに出てらっしゃるD先生じゃないですか』
青山は職業柄つい身体にシナを作ってしまった。職業柄とはもちろんオカマバーのアルバイトの方である。すると、突然Dは店のソファから身体を起こし青山の顔をジッと覗き込んできた。青山は自分の招待がバレたかと思い、心臓がどきどき脈打つのが分かった。
『な、なんですか?こんな年増の顔を覗き込んできて。嫌だわ皺が見られちゃう』
青山は誤魔化すようにそう言うと、顔を伏せた。だがDの手にその顎を掴まれた。Dに力任せにグイと正面を向かされてしまった。目の前にDの顔があった。そして執拗に青山の顔を覗き込んできた。完全に見破られたに違いない、青山は自身の政治生命の終焉を覚悟した。
『美しい・・・』
突然、Dが微笑んだ。それは敵対派閥にあって実力も無いくせにTVばかりでてるお軽い政治家Dではなく、一人の男のそれだった。青山はついDの顔に見蕩れてしまった。同時に押さえ込んでいた女としての欲望が湧き上がるのを感じた。
 慌てて青山は、顎を掴むDの手を振り払い、同時に自らの欲望も振り払うようにDから逃れた。
『D先生ったら、からかわないで下さいな』
和服の襟元を直しながらDはなるべく顔が見られないよう横を向いた。だがもう一つ、Dの顔を見ることで自分が動揺してしまうことへの恐怖感もあったのだ。
『こんな大年増を相手に、お戯れを。冗談もほどほどにしないと怒りますよ』
『なぜ怒る?』
思いもよらぬDの質問に青山はうろたえた。どう答えるべきなのか?いや、それ以上に自分はなぜ怒らなければならないのか?
『怒りは愛の裏返し、違うかな?』
Dの優しい微笑みは本物だった。青山は、初めて自分を愛の対象として見てくれる男に出会ったのだ。
『だから先生、からかわないで!』
『からかってなどいない』
『だってわたしは見てのとおりオカマ。その上、こんな大年増』
青山は上目遣いにDの表情を覗き込んだ。そんな自分でもあさましいと思ったが、耐えられなかったのだ。
『オカマだろうが大年増だろうが、そんなもの恋愛に関係無い』
Dの言葉に青山は強い衝撃を受けた。かつてこれほど器の大きい人物は、政治の師である中田以外見たことが無かった。
『今夜、俺は君を抱くよ』
その強引さに青山はあっという間に落ちた。と同時にこの男は中田を超える逸材だと感じた。政治家としてでなく、男として。
 あの激しい夜以来、青山は自分のすべてをDの為に捧げることを決めた。長年の敵対関係にあったDの所属する派閥との歴史的和解を進めたのもそのためだ。そしてDを共通の首相候補に祭り上げたのも青山だった。いわば青山こそがD政権の立役者だったが、青山は何一つ要求しなかった。なぜなら青山は何も欲しくは無かったのだ。あれ以来、週に一度、女装した青山をDは抱いてくれた。Dが青山と気付いているかどうかは未だに分からなかったが、きっと気付いていないだろうと青山は思っていた。それこそDの器なのだと思ったのだった。

「さあ合田くん!観念して辞任したまえ。ついでに議員バッジも外してしまえ!」
味方と頼んだ石川総務会長、青山政調会長がまるで自分に同調しないことを知って合田幹事長は愕然とした。所属するのは党内第三派閥だったが、持ち前の根回し上手でここまで順調に出世して来た。幹事長の次は首相候補の目だってある。こんなところで辞任させられたら堪らない。
「ふん!勝手にすりゃあいいさ。貴様なんて元々泡沫候補だったろう。何かの間違いで当選しただけじゃないか!
「だが国民の支持率は過去最高です」
石川総務会長がそう口を挟んだが、合田はものともしなかった。
「支持率がなんだ!単なる人気投票じゃないか!政治はそれほど単純なものじゃないよ」
合田は立ち上がると額の、Dに髪を引き抜かれた箇所に手を触れた。痛みと恥辱に帯びた熱を手の平に感じ、復讐のエネルギーにしようとしているようだった。
「このままでは済まさんぞ」
呪いの言葉とでもいうように低い、おぞましい声だった。合田は立ち上がると、控え室から出て行った。
「良いのですか?敵に回すと少し厄介な奴ですよ」
青山政調会長がそう呟いたがDはまったく意に介していなかった。
「さ、次の会場に行こうか!はははははー」
明るく言い放つと自ら先頭に立ち、控え室を後にした。

 この日、Dは3つの会場を回り遊説を行った。人気取りは国会閉会中の政治家にとって一番重要な仕事である。ましてDは首相にして民自党の総裁である。Dの演説如何によって当落の決まる議員は少なくないのだ。だからこそ合田のようにDの奔放な発言を危惧するものもいた。
 Dはもともと金持ちの家でわがまま放題に育ったお陰で大衆が大嫌いだった。安物のスーツを着て、あくせく働く大衆を見ていると蕁麻疹が出てきた。更に、彼らが安酒屋や酔い潰れ臭い息を吐きながらよろよろ歩いている様を見ると吐き気がした。
 まだ若い頃、ベテラン議員のお供で新橋の格安の料亭に行った帰り道、泥酔したサラリーマンと道が一緒になったことがある。どこまで歩いてもDの前を歩いていた。焼酎だろうか?安くて身体に悪いだろう酒の悪臭がプンプンした。時折、しゃっくりをする度に吐きそうになり、そのたび悪臭が濃くなったのだ。たまらずDは襲い掛かった。虚を突かれたサラリーマンは抵抗できずDのボディブローをモロに受けた。巨大なしゃっくりがこみ上げたように、サラリーマンは腹を押さえたまま丸めた背中をたかだかと宙に伸び上がらせると、口から滝のように液体を吐き出した。
 ドボドボドボ
という粘着質な音とともに大量の酒、未消化の食い物が吐き出された。Dはそれらから立ち上る臭いが自分に届く前に走り出した。
 その一件からDはますます大衆が嫌いになった。そしてDはまた自分で勉強が出来なかったくせに学歴の低い者も大嫌いだった。このためだいたい98%くらいの国民は嫌いな部類の人間だった。
 だからといって
『君らが嫌いだ!だから苦しめてやる』
なんていう政治家はいない。なぜなら国民に投票してもらえなくなってしまうからだ。ところがDはそれを大声で言ってしまうのだ。

「どうぞ」
第3秘書で愛人でもあるケイトがDにグラスを渡した。
「ああ、ありがとう」
作品名:オラガナイザー 作家名:剣崎直人