モントリオールのおじいちゃん
クリスマスが終わって、ニューイヤーが来て、サユキのホームステイにも終わりが来た。
サユキが学校の寮に戻る日、サユキのフェアウェルパーティーが開かれた。
サユキはおじいちゃんにもらった赤いチェックのスカートを履いていて、いつもより大人っぽく見えた。
おばあちゃんが僕の背中をそっと押してくる。
僕はおずおずと歩み寄って、
「サユキ、これ」
小さな箱をサユキに手渡した。
チョコレートだ。
「甘くないやつ、おじいちゃんと僕とで、選んだから」
その日、おじいちゃんは体調が優れなくて、病院にいた。
僕はなぜだかサユキの顔を見ることができず、うつむいていた。
すると、サユキはかがんで、僕と目線を合わせた。
吸い込まれそうに真っ黒い瞳に、僕はどきどきした。
「ありがとう、AJ」
サユキはにこっと笑って、
「おじいちゃんや、家族みんなと仲良くね」
と言った。
「・・・あのさ、サユキ」
僕はひとつ、聞きたいことがあった。
「なあに、AJ」
「サユキ、って名前、どういう意味?」
僕は日系の友達から、聞いたことがあった。
日本人の名前には、たいていカンジというものがあって、ひとつひとつ意味が決まっているのだと。
サユキ、という人の意味するところに、なぜだか興味があった。知りたいと思った。
「powdery snow」
サユキはきれいな発音でそう言った。
その日も、モントリオールは細かい雪がちらちらと降り続いていた。
作品名:モントリオールのおじいちゃん 作家名:河上かせいち