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河上かせいち
河上かせいち
novelistID. 32321
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モントリオールのおじいちゃん

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 なんでなんだ、なんでこんなにいらいらするんだろう。
 僕はベッドに寝転んで、枕に顔を押し付けて、考えていた。
 サユキのせいだ。サユキがこの家にいるから・・・
 なんでサユキがいたらいらいらするんだろう?
 別にどうだっていいじゃないか、日本人がいようがいまいが。
 ただ、なんだか、悔しいんだ。
 なにがなぜ悔しいのかわからないけど、悔しいんだ。
 いらいらを紛らわそうとして、DSに手を伸ばしたところで、ドアがノックされた。
「AJ、いいかしら?」
 おばあちゃんの声だった。
 僕は、うん、とつぶやいて、DSのスイッチを入れた。
「入るわよ」
 おばあちゃんは手にマグを持ってゆっくりと入ってきて、ベッドに座った。
「AJの好きなホットチョコレートを入れたわ。飲むかしら」
「飲む!」
 僕はDSをぽいと放って起き上がって、マグを受け取った。
「あちち」
「慌てないで。やけどしないようにおあがり」
 ふーふーと息を吹き込みながらチョコレートを飲む僕を、おばあちゃんは穏やかな目で見ていた。
 きっとこのあと、サユキのことで怒られるんだろうな。
 母さんは怒ると怖いけど、おばあちゃんなら咎める程度で終わる。だから僕はおばあちゃんが部屋に入ってくることを許したんだ。
 おばあちゃんに注意される覚悟を決めながら、僕はチョコレートをすすった。
「AJ、その帽子、よっぽど気に入ったのね」
 おばあちゃんは僕のかぶっている帽子を指した。
 さっきおじいちゃんとおばあちゃんがくれたクリスマスプレゼントの帽子、実はずっとかぶったままだったのだ。
「うん。ありがとう、これ。すごくあったかいや」
「そう、よかった」
 おばあちゃんはにっこり笑って、
「その帽子ね、おじいさんが選んだのよ」
「え・・・」
 僕は驚いた。
 てっきり、おばあちゃんが買いに行ったのかと思ってた。
「ダウンタウンにショッピングに行ったときね、おじいさんが、この帽子はAJに似合いそうだ、って言って、買ったのよ。だから、AJに喜んでもらえて、おじいさんもすごく嬉しいと思うわ。」
「おじいちゃん、ほんとに車椅子で外に出たの?」
「ええ。雪が降っていたから、大変だったわ」
 僕は何も言えなくなった。
 おじいちゃん、サユキのプレゼントだけじゃなくて、ちゃんと僕のも買ってくれたんだ。
「AJ、よく聞いて」
 おばあちゃんが優しい声で言った。
「おじいさんね、病気になってから、あんなに笑ったのは久し振りなのよ」
「そうなの?」
「そうよ。特にサユキが来てからは、本当によく笑うようになったわ」
 サユキの話になって、僕は少し身構えた。
「・・・おじいさん、病気になって、どもってしまうようになってから、あまり人と話さなくなったの。皆、何をしゃべっているのかわからないからって言って、おじいさんとお話をしようとしなくなって。ひどいときは、うっとうしがられてね。だから、おじいさんはどんどん無口になっていったのよ」
 おばあちゃんは悲しそうに、窓の外を見た。
「寂しかったでしょうね、おじいさん」
 曇った窓ガラスの向こうでは、しんしんと雪が降っている。
「でもね、サユキは違ったの。サユキは、英語がパーフェクトに分かるわけでもないのに、一生懸命おじいさんの話を聞こうとしたわ。おじいさん、とても喜んでね。嬉しそうに、サユキとたくさんお話をして、たくさん笑うようになったの」
 僕はマグを両手で包んで、下を向いた。
 そっか、僕、何が悔しいのか、わかった。
 ほんとはサユキじゃなくて、僕が、おじいちゃんにたくさんお話してほしかったんだ。
 僕の役割を、サユキに取られちゃったような気がしてたんだ。
 そのくせ僕は、おじいちゃんと話すのが面倒くさいだなんて思ってしまっていた。
「だから、おばあちゃんね、サユキにはとても感謝してるの。本当の孫みたいに、愛しているのよ」
 おばあちゃんは僕の頭をそっと撫でて、
「さあ、わたしの可愛いAJは、これからどうしたらいいと思うかしら?」
 僕はすぐに答えた。
「おじいちゃんの話をたくさん聞く。たくさんお話する」
 顔を上げて、おばあちゃんを見た。
 おばあちゃんはにこにこ笑いながら、うなずいている。
「それから、サユキにごめんなさいを言う」
「そうね」
「あとは、働き者の日本人みたいに、たくさん家のお手伝いをする」
 おばあちゃんは笑った。
「カローシしないようにね」