モントリオールのおじいちゃん
おばあちゃんと母さんとサユキは、クリスマスディナーに向けて準備を始めた。
父さんも、丸焼き用の大きなターキーをさばく手伝いをしている。
おじいちゃんは部屋に戻って休んでいるようだった。
僕もお手伝いで、テーブルのセッティングをしていた。
サユキと。
「あの、AJ、ナイフとフォークって、こう置けばいいの?」
僕は見向きもせずに、うん、と答えた。
「ナプキンは?こう?グラスは?」
うっとうしくなって、僕がセッティングした席を見せた。
「こうだよ。こう置くんだよ」
「そうなんだ、ありがとうー。日本と全然違うから、わからなくて・・・」
日本の食卓でも、食器の場所は決まってるんだよ。なんだかおもしろいね、と言って、サユキは楽しそうに笑った。
何がおもしろいのか全然わからない。
僕は黙々とセッティングを続けた。
早く終わらせて、またDSやろう。
「ねえ、AJ」
作業をしながら、サユキが何やら話しかけてくる。
発音が下手で、なんだか聞きづらくて気持ち悪い。
「おじいちゃんね、日本に行ったことがあるんだってね」
日本に行った?そういえば聞いたような・・・
サユキと普段そんな話してたんだな。
「おじいちゃん、若い頃ジャーナリストだったんだってね。それで、サッポロオリンピックのとき、日本の北海道に来たんだって。北海道って知ってる?日本の一番北にあって、寒いところなんだけど、あ、モントリオールほどじゃないけどね。それでね、そのとき出会った日本人は皆親切にしてくれて、料理もおいしくて、ホテルやサービスも立派で、すごくよかったって言ってた。それ聞いて、なんだか嬉しくなっちゃって。おじいちゃん、他にもたくさん色んな国に行ったんだって。すごいよねえ・・・」
「知ってるよ!」
僕は大声をあげて、サユキの話を断ち切った。
サユキは驚いて手を止めて、目を丸くして、こちらを見ている。
「AJ?」
おばあちゃんがキッチンから顔を出した。
僕はセッティング途中のナイフとフォークをテーブルの上にばらばらと捨てて、地下室に駆け下りた。
作品名:モントリオールのおじいちゃん 作家名:河上かせいち