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河上かせいち
河上かせいち
novelistID. 32321
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モントリオールのおじいちゃん

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2.



 待ちに待ったクリスマスの日。
 外は雪が降っていて、極寒のモントリオールは街中あたたかいイルミネーションで彩られていた。
 僕は目が覚めてすぐに、リビングへと飛んで行った。
 昨日の夜吊るしておいた靴下が、ぱんぱんに膨れ上がっている。
 ツリーの下にも、赤や金や銀のぴかぴかの箱が所狭しと積み上げられている。
「サンタクロースが来た!」
 僕はプレゼントに飛びついた。
 僕はもう既にサンタクロースが誰なのか知っている年齢だったけど、それでも嬉しくて仕方がなかった。
 リビングのカウチでテレビを見ていた母さんが言った。
「AJ、ちょっと待って。プレゼントを開けるのはサユキが起きてきてからにしましょう」
 僕は固まった。
「は?なんで」
「だって、プレゼントは皆で開けた方が楽しいでしょう。それにサユキは、カナディアンクリスマスは初めてだし。ねえ、父さん」
「そうそう。そうだ、そろそろ起こしてくるよ」
 母さんの隣に座っていた父さんが腰を上げて、サユキの部屋へ向かって行った。
 僕はふくれっ面で、母さんの隣に座った。
「・・・ねえ、母さん」
 僕は母さんの肩にもたれかかりながら、甘えた声を出してみた。
「なあに、私の可愛いトナカイちゃん」
 母さんはふざけて言った。
「僕、トナカイじゃないもん」
「ふふ、じゃあなあに?」
「ライオンだぞー!」
 僕は母さんの肩に飛びついた。
 母さんはくすくす笑っている。
「・・・あのさ、なんで、サユキはうちにいるの?」
 母さんの肩に顔を押し当てて、僕は言った。
 母さんは少し黙ってから、僕の頭を撫でて、
「AJ、あなた、今朝おじいちゃんの顔見た?」
 僕は顔を上げた。
「おじいちゃん?まだ見てないけど」
「もう起きてくるわ。ちゃんとご挨拶なさいね」
 挨拶だなんて、子供じゃあるまいし、言われなくてもできるよ・・・と言いかけたところで、僕は気付いた。
 モントリオールに来てから、僕はおじいちゃんにおはようを言っていなかった。
 朝起きて、何をしていたっけ・・・DSしたり、テレビを見たり、雪だるまを作ったりしていた気がする。あと宿題も。
 でも、それとサユキの話と何の関係があるんだろう?
 気が付いたら、リビングには父さんと、車椅子に乗ったおじいちゃんとそれを押すおばあちゃんと、頭に寝癖をつけたままのサユキがいた。
「メリークリスマス!」
 父さんがそう言って、サユキの頭にサンタクロースの帽子をかぶせた。サユキは驚きながら、素敵な寝癖直しね、と言った。
 サンタの帽子、僕がかぶりたかったのにな。僕は口を尖らせた。
「さ、AJ、プレゼントを開けましょう。サユキも」
 僕は今度こそプレゼントに飛びついた。
 サユキも自分宛のプレゼントをひとつ拾い上げて、丁寧にひとつずつセロテープやシールをはがしていく。まどろっこしくて僕はいらいらした。
 僕は包装紙をびりびりと豪快に破いていった。
「サユキ、プレゼントの包みはAJみたいに派手に破っちゃっていいのよ。それが醍醐味なんだから」
 母さんが笑いながら言った。
 サユキは一瞬戸惑った顔をしたあと、えーいと声を上げてちまちま破っていった。
「あ、スカート!」
 サユキは声をあげた。
 それはおじいちゃんとおばあちゃんからだった。
 赤くて、スコッティッシュなチェック模様のスカートだった。
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん」
 サユキはおじいちゃんとおばあちゃんにハグをした。おじいちゃんはにこにこ笑っている。
 僕はさっき破いたばかりの自分のプレゼントを開けた。中身は、頭のてっぺんにポンポンの付いた帽子だった。
「帽子だ!」
 僕もサユキに負けずに声をあげて、早速その帽子をがぼっとかぶった。
 プレゼントについていたクリスマスカードを見ると、おじいちゃんとおばあちゃんからだった。
 僕は立ち上がって、おじいちゃんのところまで行った。
「やあ、おじいちゃん」
 僕は妙な気持ちになった。
 こうやって、おじいちゃんの顔を真正面から見るのは、久しぶりな気がした。
 おじいちゃん、こんな顔してたっけ。
 小さい頃いつも一緒に遊んでいた顔は、しわくちゃになって、髪の毛も真っ白で、目もしょぼんとしていて、なんだか疲れているように見えた。
 だけど、昔と同じように、にこにこ笑っていた。
「あ、えっと、まず、おはよう」
 後ろで母さんがくすりと笑ったのが聞こえた。
「帽子、ありがとう」
「どういたしまして、AJ」
 いつもどもっているおじいちゃんの声が、なんだか妙にはっきり聞こえてきて、僕の耳の中で何度も繰り返された。