Minimum Bout Act.02
カッツから語られる昔話に、ルーズは何とも言えない気持ちになった。
今までこの3年間生活を共にしてきたというのに、ルーズはカッツやシンの過去をほとんど知らない。恐らく過去の記憶が無いルーズの事を気遣って、2人は極力そういった会話をしないようにしてくれているのだろう。2人が出会った頃の事を聞くのはこれが初めてかも知れない。
「このガキがチェイスJr.って事は、親父はシンが当時組んでいたチェイスで間違いないだろうな。スナイパーは2人一組で行動する事が多い。狙撃手と観測手の2名だ。チェイスはスナイパーとしての腕もかなりのもので、目標までの距離、風向、障害物など、あらゆる状況を的確に判断してシンに引き金を引く最高のタイミングを伝えてた」
「どちらも一流だから、斥候として使ってたのね」
「残念だが俺の部隊の狙撃手ではシンやチェイスの足元にも及ばなかったからな……チェイスには1人息子がいて、写真を見せてもらった事があったな。戦争が続いてたからチェイスが持ってた写真もまだ3歳くらいのだったが、子どもが笑って暮らせる世の中にしたいから、早く反政府軍を掌握して戦争を終わらせたいってよく言ってたよ」
宇宙を走る小型宇宙船の中で、どんどんと流れて行く星を横目にカッツとルーズは息を吐く。
子どもが笑って暮らせる世の中にしたいから敵を倒したい。という思いは相手も同じだろう。
敵、味方。そのどちらの気持ちも理解しなければ、戦争などいつまで経っても終わる事はないとルーズは思う。暴力で解決する事など何もないと、今までの歴史で嫌という程学んだはずだ。
「シンはチェイスが死んだのはオレの所為だって言ってた。どういうこと?」
「ーーーある日、俺の部隊は前線から一旦後方へ下がって隊を組み直してた。シンは俺に着いていて、チェイスは別のスナイパーと組んで見張りに出てたんだが……敵の基地に近づきすぎたチェイス達は逆に狙撃されたんだ。仲間は死亡。チェイスはなんとか逃げて来たが、目に怪我を負った。シンは自分が一緒に行っていればチェイスは怪我をせずに済んだし、仲間も死なずに済んだと言ってひどく落ち込んでやがったよ」
「でも、それはシンの責任じゃないでしょ?」
「まあ、俺の所為だな」
おどけたように言うカッツを、ルーズが睨む。
作品名:Minimum Bout Act.02 作家名:迫タイラ