Minimum Bout Act.02
No.6「矛盾」
錆びた鉄条網が延々と続く市街地の外れを、シンはずっと過去を振り返りながら歩いていた。
昔より高い建物が減り、乾燥しているリドヒムの町並みは殺風景だった。自分が地獄だと思っていた頃はそこら中に敵も味方も分からない程死体が転がっていたが、今はそんな事も無く、銃声や爆撃音は聞こえるものの案外静かだ。
男に銃を突きつけられて歩くシンを、崩れかけた家々から子どもや若い女達が物珍しそうに覗いている。
「おい、俺だ!」
男は事務所のような簡素なコンクリート造りの建物の前まで来ると、中に向かってそう声を掛けた。すぐ側のガラスのはまっていない窓から顔を出した中年の男が、シンを見て眉を上げる。
「なんだよウェイ、そいつ誰だ?」
「元リドヒム政府軍の伝説のスナイパー、ヘイズのシンだとさ。わざわざJr.に会いに来たらしいぜ」
「ヘイズ……本当かよ? へえ~! 噂のスナイパーがこんな男前だったなんて、びっくりだ! Jr.なら奥だぜ、入りな」
そこでウェイと呼ばれた男は銃を下ろし、シンを後ろ手に縛った。
「悪いな、ここの中では武器を手にもってちゃいけない決まりなんだ。縛らせてもらうぜ」
「構わない」
中に入ると、あちこちのドアは壊れていて隙き間風が吹いていた。一番奥の突き当たりには地下へと続く階段があり、シン達はそこへと入る。
少しひんやりとする階段は湿気でじめじめしていて、やけに靴音が響いた。
シンはリドヒムに来る時に死ぬ覚悟をしていた。
チェイスを置いてカッツと軍をやめなければ、チェイスは死なずに済んだかも知れない。チェイスが死んだ事で政府を恨んでいる息子のJr.は、恐らく国を捨てたシンも憎んでいるはずだ。
「止まれ」
言われるままシンは足を止める。
ウェイが目の前のドアをノックすると、女の声で返事が聞こえて来た。
静かにドアが開き、中から中年の女性が顔を出してウェイを見、次にシンを見た。
「おやウェイ。この男前は?」
「こいつ、Jr.に会いたいんだとよ」
「Jr.に? ……ふうん、そう。入って」
「俺は持ち場に戻る。パメラ、後は頼む」
そう言い残すとウェイはシンを置いて、さっさと元来た階段へといなくなってしまった。
パメラと呼ばれた女性はシンが縛られているのに気付き、目を丸くする。
「あんた、政府軍の軍人さん?」
作品名:Minimum Bout Act.02 作家名:迫タイラ