Minimum Bout Act.02
思いのほか簡単に反政府軍が防壁を作る境界まで来る事が出来た。
シンは昔自分が前線にいたころの地の利を生かし、うまく地下道や建物の裏手を使って移動したのだ。
さすがに何年も経っている為建物の崩壊は以前より進んでいたが、それでも生活している人間はいて、少しずつ壊れた建物を修復している。
爆薬の匂いと焦げた匂い、そして死臭が漂うそこはやけにシンの気持ちを打ちのめした。
ジャイロに教えられたのはチェイスの死とチェイスの息子、チェイスJr.の離反だった。年上でいつも明るく場を和ませてくれていたチェイスを、シンは尊敬していた。同じ隊で一、二を争う銃の腕前だと言われていたが、別にどちらが上手くてもシンには関係なかった。
チェイスのスポッターとしての腕は本物で、いつも隣りを安心して任せる事が出来た。
カッツの部隊と共に戦う事になった時、自分と同世代のカッツの見事な指揮と人柄に、チェイスは憧れを抱いたようだった。
たまたまカッツがシンを自分が直接指揮する小隊に入れた事で、チェイスはシンに対して嫉妬を抱いたらしい。だがそれはカッツがチェイスの腕を見込んでの事だったのだ。
斥候としての経験はシンよりもチェイスの方が上だったし、何より銃の腕もシンにひけを取らなかったのだから、カッツとしてもシンとチェイスを分けた事は信頼の証しでもあった。
「チェイス……」
ぼそり吐き捨てるようにシンは呟く。
チェイスはカッツの側に置いてもらう為には手柄を立てるしか無いと思い込み、任務で先走ったのだ。
その結果が仲間の死亡と己の負傷。
チェイスの怪我を知り、責任を感じたシンは怪我がある程度回復したチェイスに頼まれ、2人で作戦を無視して市街地へ飛び出した。
そこでシンは取り返しのつかないミスを犯してしまったのだ。
戦争なのだから、民間人が巻き込まれる事もあると仲間には言われた。が、シンにはそう思えなかった。例え市街地だろうとも、絶対に民間人を巻き込んではいけないのだ。それが戦争のルールであるべきなのだ。
それをさも、戦地に住んでいる方が悪いという言い方をする軍人には、人としての良心が崩壊しているのではないかとすら思えてしまう。
否、元は同じように考えていたはずの人間でも、戦争というものは人を簡単に崩壊させてしまうのだ。
シンは銃を握れなくなっていた。
作品名:Minimum Bout Act.02 作家名:迫タイラ