Minimum Bout Act.02
「じゃあなにか!? シンはこのガキが反政府軍に寝返ったと分かってて行ったってのか!?」
派手にテーブルを叩いてカッツが目の前の軍服の男に食って掛かった。
難しい顔をして腕組みをする軍人は、リドヒム政府軍のジャイロ中将。カッツとはかつての戦友だ。
「チェイスが死んだのは半年程前だ。あいつに一小隊を任せたんだが、その中にチェイスJr.もいた……あれは完全に私のミスだった。シンがいなくなってからのチェイスは功を焦るようになっていて、心配した私はずっと食料調達などの後方支援をさせていたんだ。だが、半年前に立てた作戦の結果次第では敵に大きなダメージを与え、そのまま長期的な対話路線へと持って行く事も可能だった。失敗する訳にはいかない大事な任務だったが、チェイスに泣いて頼まれて、私は断れなかったーーー軍にいたお前にならチェイスの気持ちが分かるだろう? 手柄を立てて英雄になるという事が、どれほど軍人にとって名誉な事か」
「はっ! 知るかよ。俺は名誉の為に軍に入ってた訳じゃねえ。それしか生きて行く方法を知らなかっただけだ……ジャイロ。お前シンにその事を話したのか?」
ドスの利いた声で言うと、カッツはジャイロを睨んだ。ジャイロは静かに頷く。
「ーーー戦争なのだからいつ死ぬかなど分からない。それでもチェイスは男として、誇りを持って戦地に向かったんだ」
「チェイスのガキは作戦が失敗して親父が死んでしまった事を、政府軍の所為にしたって訳だな? それで、ここを飛び出して反政府軍に鞍替えした」
「ああ、おそらく。しかもJr.は父親がいつもシンの事を話していたから、シンに対しても恨みを持っているかもしれない」
ゆっくりと組んだ腕をほどき、ジャイロは窓の外へと視線を移した。
空の色は薄い黄土色で、霧状の雲が空を幻想的に見せている。しかしその美しい風景とは裏腹に、銃声や爆音が時折聞こえて来て落ち着く暇を与えてくれない。
「それが分かってて何故シンを行かせた。あいつはお前の元部下だろうが?」
「止めてシンが聞くとでも? あいつには殺される前に殺せと伝えた。後のことは俺にはどうにも出来ない」
ジャイロの言葉に、カッツは口をつぐんだ。
シンは殺される事を覚悟の上で、チェイスJr.に会いに行ったのだ。
「くそっ……」
作品名:Minimum Bout Act.02 作家名:迫タイラ