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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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花、咲き乱れる世界

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「とりあえず今回のアレが一回限りのモンなのか、再び起こるのか。試してみんといかんわな」
 研究室に戻った三人は花が咲いた以外には変りのない事を確認しあった後、部屋の隅の応接コーナーで会議を始めた。小さな研究所には会議室などというものは無い。しかし、然るべきところから予算を貰わなければならない為、時々思いだした様にやって来る視察者用の応接セットは有るのだ。
「差し当たり、温室の時間を半分にして貰おうかと思とんのや」
「え、時間を半分にですか?」「やっぱりそうしますか」
 メイと加藤が同時に答えた。
「え、加藤くん。先生の言っている意味が解るの?」
「ええ、メイさん。昨日メイさんが言ってたじゃないですか。秋になって一斉に花が咲くなら、次は三号も咲くのかな? って」
 加藤はいつでも冷静に喋る。
「うん、言った。もしそうなら早く見たいねって……。あっ」
「そや。その三ヶ月後を半分にするんや」
 前述ではあるが、この研究所の温室は完全に隔離した空間の中で、擬似日照時間と温度を管理する事によって季節を再現している。
 通常は一年でワンサイクルを廻すところを季節が倍の速度で移り変わるように調整しようという指示が出されたのだ。これにより三ヵ月後に来る予定だった三号温室の秋は一ヵ月半でやって来る事になる。その次の四号温室が秋になるのは三ヵ月後だ。
「じゃあメイちゃんは早速、日照と温度管理システムの書き換えを頼むわ。加藤君はすまんがメイちゃんが準備できるまで手動で調節したってくれ」
 保志が厳かにそう言い放つと、すかさずメイが切り返した。
「先生、システム書き換えにそんなに時間は掛からないですよ。あたしがここに来た時に設定変更に関する数値は画面入力で変えられる様にして、温度と日照が別々だったのを統合しましたもん。前は面倒だったみたいですけど、今では冷夏や暖冬の再現も簡単にできますよ」
「おや、せやったかぁ。こりゃ、失礼したな」
 保志は早くも二十四時間稼動の温室の管理をしているサーバーの端末を操作しているメイの背中に侘びた。

 そして、三号温室の季節が秋を迎えた――。
 しかし、そこでは何の変化も起きなかった。