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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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花、咲き乱れる世界

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 年々暑さを増してきた殺人的な夏が終わり、山に紅葉が見られようという頃。
 全国で一斉に桜が咲き始めた。
 しかも、ひとつひとつがこれまでに見た事も無いような大輪の花である。
 通常は南の方から時間を掛けて桜前線が北上するものだが、この時の桜は少々の時間差はあるものの、まさに示し合わせた様に一斉に咲き始めたのだ。
 桜に目を奪われて見落としがちではあったが、咲いたのは桜だけではない。
 梅に桃、牡丹に椿。それこそ思いつく限り、目に付く限りの草花が一斉に花芽を膨らませ、咲きだしたのである。

 植木職人の郷田三郎は秋晴れの空の下、お得意先のこじんまりとした日本庭園で植木の剪定をしていた。
『しかしこうやたらに季節外れの花芽が有ると切り難いものよ』
 郷田は脚立を使って植木の上の方を、あるものは丸く、またあるものは錐状に刈り込もうとしていた。如何にも人の手が入った様に見せながら、同時に自然の持つ風景をその中に息づかせようとするのだが――。お得意先の奥さんが「この木の花が咲くのが楽しみ」などというのを聞いたものだから剪定し難くて仕方がないのだった。
『しかし、ヒデさんよぉ。こいつはちょっと妙な事になってるぜ』
 花が咲いた時に斑になったりせぬ様に気を使いながら慎重に鋏を入れていった――。