黒い満月
「ヨシキ、いい、ようく聞いてよ、
だからね … まだ動かないのよ、
その日は、2013年の5月21日で、
もうあの時から1年も経ってしまっているのによ」
ミッキッコはそう呟くだけ呟いて、それから私をじっと見つめて来るのでした。
だけど私はまだ何のことかさっぱりわかりません。
それで思わず、
「何が動かないんだよ?」と、強めに聞き返しました。
するとミッキッコは大きく一息吸って、無感情に一言さらりと言うのです。
「お月さんが」
それでも私は何のことかさっぱりわかりません。
多分、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていたでしょうね。
「お月さんがって?
まだ動かないの?
それって、どういうことなんだよ?」
私はミッキッコのこの奇々怪々な『動かない』話しに、質問を繰り返しました。
するとミッキッコは、今度は学校の先生のような顔付きとなり、
出来の悪い生徒に、もう一度念を押すかのように話して来るのです。
「ヨシキ君、アナタ知らないの、
来年の2012年5月21日、その日は … 金環蝕の日でしょ」
私はそれを聞いてはっとしました。
そう言えばそうなんですよね。
2012年5月21日は、
金環蝕の日 … だったんですよね。