黒い満月
夕風美月子。
当社の優秀な女性スタッフ。
愛称は、ミッキッコです。
名前からすると、如何にも古風っぽいですが、現代を駈ける女性。
都会育ちで、あか抜けしていて
ちょっとビールの銘柄で言ってみれば …
『金麦』と『端麗』を掛け合わせたようなものかな。
外見はエレガントで、性格はおとなしそうに見えるのですが、
これがなかなかの偽装工作ものでして、
それはそれはキッツイやり手なんですよ。
私はそんな金麦淡麗・ミッキッコを一度味わってみたいものだと、ずっと特別な好意を持ち続けて来ました。
今、そのミッキッコが自分の席で、
まるで抜け殻のように茫然とし、遠くを見つめているのです。
そして私は、そんな彼女が気になり、デスクの所までふらふらと出掛けて行ってしまいました。
「ミッキッコ、どうしたんだよ?
いつもの爽やかなミッキッコじゃないよなあ … 何か心配事でもあるの?」
私は出来るだけ優しく声を掛けてみました。
するとミッキッコは、まるで私の登場を待っていたかのように、意味深にねちっと答えて来るのです。
「あらっ、ヨシキ、やっと来てくれたのね、嬉しいわ、
でもね、そんなに大丈夫でないの … かもよ、
ね~え、ヨシキにちょっと聞いて欲しいことがあるの、お願い」