黒い満月
私は、こんなミッキッコの話しに絶句しました。
だって、元々ミッキッコが自分の話しを聞いて欲しいと、私にお願いをして来たのですよ。
それで、この多国籍レストランへわざわざお誘いをして、
その上に、
金環蝕なるわけのわからない都市伝説話しに、真摯に耳を傾けてやったのに … 。
とどのつまりが、
「結局、あなた … ひょっとしてバカじゃない?」ではね、
正直、ムカッと来ました。
されど、こんな手が付けられなくなったミッキッコが、
実は私、こよなく好きでして、
ここは男としてぐっと堪(こら)えました。
「じゃあ、ミッキッコはどうしたいの? 遠慮なく言ってみなよ」
私は男の懐の深さを死守しながら、彼女の所望するところを打ち明けるよう促してみました。
すると、ミッキッコはしばらく黙り込んでいたのですが、
またぽつりぽつりと語り始めるのです。
「私、毎日毎日
金環蝕は … 嫌なの、
ヨシキとは、
いつも明るく輝く太陽の下に、
一緒に … いたいの、
だから、2年後の
2013年の5月21日には、絶対に … そうあって欲しいの」
ミッキッコはここまでそう呟いて、先程までの勢いから一転、
大粒の涙をハラハラと零し始めました。
「おいおいおい、トムヤムクンのスープの中に涙が落ちるじゃん、
酸っぱ・塩味になるぜ」
私はそう言いながら、ミッキッコにおしぼりを渡してやりました。