黒い満月
ミッキッコは、同棲と言う言葉で男の心に火を点けておいて、
後は「私、嫌なの」と勝手に結論付けてしまったのです。
それは奈落の底へとまでは言いませんが、私はどーんと突き落とされたようなものですよね。
「そりゃあ、ちょっとお嬢さん、ひどくない?」と腹が立ちましたが、
ここは我慢して、直ぐさま「どうしてなの?」と聞き返しました。
するとミッキッコは、「ゴメンね」と謝りながら次へと話しを続けるのです。
「だって、毎日金環蝕で、世の中全体が暗くなってしまっているのよ、
それなのにね、なぜかヨシキだけが異常に明るいのよ、
この理由(わけ)って、何だかわかる?」
そんなこと突然聞かれてもね … 。
私にはわかりません。
「多分それは、ミッキッコと同棲出来て、気分が最高なんだよ」と適当に答えました。
するとミッキッコはぎゅっと恐い目で睨んで来て、「違うわよ」と一言で否定して来ました。
そしてその後、
まるで何かに取り憑かれたかのように、まことに勝手で奇妙なことを話し出すんですよね。
「ヨシキはね、金環蝕と言うか、黒い満月の環境こそが、きのこの栽培に一番適合しているのだと言ってね、
アパートの窓際で、舞茸/椎茸/なめこ/しめじなんかを育て始めるのよ、
その中でも一番のお気に入りは金茸(きんたけ)、
それをわざわざオフィスの中まで持ち込んでね、机の引き出しの中で育てるのよ、
挙げ句の果てに、起死回生の新企画、
それはネット内にも、食用きのこの栽培をと、
それに毒きのこも笑い茸もある〈きのこワンダーランド〉を作ろうってね、
結局、あなた … ひょっとしてバカじゃない?」