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暗闇の中に潜むモノ

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 電灯を落とすと南向きの窓から差し込む月明かりだけが、この部屋を照らす。
 その月明かりも、群雲へと姿を消す。すると、部屋の中は真っ暗闇となってしまう。六畳間の狭い部屋では、布団を二枚敷くとそれだけで足の踏み場が無くなってしまう。起きて半畳寝て一畳とは言うが、布団は二畳分ぐらい場所を取る。
 だから、布団から抜け出す時は最新の注意を伴った。暗い部屋の中で、間違ってMを踏んでしまっては、可哀想である。
 ……まあ、むしろもっと踏んでくださいとか言い出しそうではあるが。流石に私に踏まれるのは嫌なんじゃないかなと思う。
 冷蔵庫の中のお酒を持って、窓際まで歩く。途中踏みそうになって転びかけたが、何とか無事に窓際に辿り着く。
 窓からは、群雲に姿を消したお月様が、それでも微かな光を漏らしている。このまま窓を開けて窓枠に腰掛けたいところだが、虫が入ってくるので網戸を開けることができない。
 夜闇は静かに街を包み込んでいた。街の明かりはちらちらと見えているが、それでも空を照らすまでには至らない。
 まるで街そのものが闇の中に落ち込んでしまったみたいだった。闇は根源的な恐怖を呼び起こすが、大部分の人間は闇の中で休息を取る。それは、人が夜という危険な時間帯を我が物にしたということを指す。
 しかし、それでも人は闇を恐怖する。闇を怖くないと声高々に言う人間はいるが、その多くは恐怖に対して鈍感になってしまっているのだ。
 それを悪しとは言わない。それはある意味、人間の進歩の証であるからだ。
 だが、それでも、闇の中には依然として恐怖は存在する。何故ならば、闇そのものは未だその意味を失ってはいないからだ。
 都市伝説、ルームメイトの死。それは、何もかもを覆い隠してしまうという闇の本質を核にしている。そういった怪談話がある限り、人は闇そのものを克服したとは言えない。
 いや、そもそも闇を克服するには、人が物理的な進化をすることが必要だ。超音波によって闇の中を飛び回るコウモリのように、闇の意味そのものを剥奪するような、そんな進化を行わなくてはならない。しかしそれは、人という種がこのまま道具に頼る限りは不可能な話である。
 闇が消え去ることはない。そもそも闇はこの宇宙そのものの本質であるからだ。
 宇宙にはそもそも光は存在しない。太陽などの恒星があって初めて、宇宙は照らされるのだ。そして、星は自ら輝くか周囲の恒星に照らされて輝く。月もまた、太陽に照らされて輝いている。そして同時に、月や星が輝けるのはこんな闇夜だけなのである。
 そのことに気付くと、闇のまた別の一面が見えてくる気がした。
 闇の中に瞬く星や月が、どれほど綺麗なものなのか、それを私たちは知っている。
 闇の恐怖を拭い去ることはできないが、闇の中でも見えるモノの大概は、私たちにとって憧憬たるものである。
 闇は内包する。混沌、秩序、そして輝きを。その輝きを見つけることができれば、きっと私たちは闇に対して、少しは胸を張ることができるだろう。
 ――群雲が晴れる。すると、そこには夜闇に浮かぶ白銀の月が、私たちを見下ろしていた。
作品名:暗闇の中に潜むモノ 作家名:最中の中