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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 2

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 二位の争いは余裕をもって追いついたカウラと一杯一杯の岡部、そして明らかに無理をしている誠で繰り広げられながらそのまま部隊のゲートまでもつれ込んだ。
 ゲートに消える誠達を見ながらシャムはそのまま軽く流して部隊の敷地にたどり着いた。そのまま植え込みの中に出来た踏み固められた道を抜けるとそこにはシャムの畑が広がっていた。
「白菜が順調。いい感じ」 
 手前に並ぶ白菜を見ながらシャムはそのまま走り続ける。遠くで銃声が響いていた。朝の作業の疲れも癒えぬままマリアにまたしごかれている新入警備隊員。少しばかり同情しながらシャムはそのまま大根が植えられた敷地を一気に通り過ぎてグラウンドへとたどり着いた。
 グラウンドの果て、ハンガーの目の前にいる自転車に乗った禿頭を見てすでに勝負がついたことを確認するとそのままシャムはその姿の方に走り続けた。
 大の字になって倒れこんでいる岡部の姿が見える。その隣ではクールダウンのために足首などを回している余裕のあるカウラ。じっと下を向いたまま動かない誠の姿も見える。
「ナンバルゲニア中尉!早く!」 
 すでに自転車を返すのを済ませたらしく、ジャージ姿のアンが手を振っている。シャムは手を振り返しながらそのまま腰に手を当てて仁王立ちしているランのところにたどり着いた。
「おせーじゃねーかよ」 
「いや、みんな早いね。驚いちゃった」 
「シャム。わざとらしいぞ」 
 アキレス腱を伸ばしながらカウラがつぶやく。その言葉にどうにか勇気を振り絞って岡部が起き上がった。
「そんな無理すること無いじゃないか」
「一応隊の面子もあるんで」 
 ロナルドの言葉に苦笑いで答える岡部。誠はというとまだ下を向いたまま肩を揺らして必死に呼吸を続けている。
「それじゃあ着替えろ。報告書の残り……とっとと上げてくれよ」 
 そう言うとランはそのまま半開きのハンガーの扉の中に消えた。なんとか立ち上がった岡部とそれに付き添うようにしてロナルドもそれに続く。
「神前先輩。大丈夫ですか?」 
 相変わらず下を向いたままの誠にアンが声をかける。なんとか息が整ってきたらしく大きく伸びをするとアンに向き直る誠。
「まあな。それじゃあ行きますか」 
 クールダウンを終えて自分を待っているカウラに目をやると苦笑いを浮かべながら誠はハンガーへと歩き出した。
「でも……フェデロは?」 
「ああ、さっき工場の庶務課に電話をしたら無事だそうですよ。こちらに向かっているそうです」 
 アンの言葉に安心しながらシャムもまたハンガーの中の轟音の響く世界へと足を踏み入れた。
 相変わらずの修羅場が目の前に展開されていた。そんな状況の中、シャム達の目の前には出たときは無かった巨大なコンテナが行く手をさえぎっている。
「あれなに?」 
「とりあえずうちでのメンテを終えたエンジンですよ、対消滅エンジン。多分『カネミツ』か『クロームナイト』……」 
「え?『クロームナイト』?」 
 アンの言葉にシャムは身を乗り出した。コンテナの周りには耐熱装備の整備班員が見える。事実すでにハンガーの外の冷風が中から噴出す熱風で汗が自然に流れるほどになっていた。
「ああ、ナンバルゲニア中尉!」 
 声をかけてきたのはつなぎ姿の西だった。彼はエンジンの担当とは別のようで見物人のような顔でシャム達に振り返ってくる。
「どうしたの?西きゅん」 
「西きゅんは止めてくださいよ。ここは危ないですよ、正門から回ってください」 
「でもあそこ」 
 シャムが指差す先には耐熱装備の技術者と語り合っているラン達の姿が見えた。
「ああ、あれは……説明を受けてるんだと思いますよ。オリジナル・アサルト・モジュール用のエンジンの積み替えなんてめったに見れませんから」 
「それじゃあやっぱり『クロームナイト』のも?」 
 心配そうなシャムにアンは笑顔で首を振った。
「違いますよ。『ホーン・オブ・ルージュ』です。あれは以前からエンジンの出力が安定しなくて……それでさっきから『05式』とかのエンジンのデータと一部反応済み反物質を抜き出して対消滅エンジンの安定領域まで持ち込んでから今の抜き出し作業をやっているわけです」 
「そうなんだ……」 
「分かっているのか?」 
 カウラの声が後ろに響いた。
「ええと……分かんない」 
「だろうな」 
 そう言うカウラの目は目の前の交換作業に集中している。隣では誠も黙ってエンジンの入ったコンテナを見つめていた。
 コンテナに天井からホースのようなものが下ろされる。耐熱服を着た整備班員がそのホースの先を受け取るとそのままコンテナにそれを接続する作業に入っていた。
「ねえ、誠ちゃん。誠ちゃんは本当は技術畑でしょ?」 
 シャムの言葉にしばらく気づかなかった誠だが、彼女の足踏みを聞くとようやく理解したと言うようにうなづいた。
「あれですか?今はエンジンの中は反応は沈静化しているはずですがまだまだ高熱を持っていますから。それを覚ますためにとりあえずナトリウムを注入するんです」 
「なとりうむ?お塩?」 
 シャムの頓珍漢な答えにしばらく誠は頭を抱えながらシャムでもどうすれば分かるように説明できるか考え始めた。
 誠はしばらく考えた後ゆっくりと説明を開始した。
「ええと、それじゃあ行きますよ。まず対消滅エンジンの動力源は?」 
「馬鹿にしないでよ。反物質。たしか……ヘリウムとかから作るんだけど……ヘリウムガスと関係あるの?」 
 いつものように脱線するシャム。誠は無視して話を続ける。
「そうなんですが、とりあえず人工的に反物質としたヘリウムをさっきシャムさんが言ったヘリウムとぶつけて対消滅反応を起こしてエネルギーを発生させてそれを利用して多量の電気エネルギーや波動エネルギーを利用してパルスエンジンでの飛行や関節の運動に使っているわけですが……かなり巨大なエネルギーが得られるのは分かりますよね?」 
 わかって当然と言う顔の誠なのでしかたなくシャムはうなづいた。
「比較的現在の反重力エンジンは効率がいいエンジンなんですがそれでも多量の熱が発生します。まあオリジナルタイプに関しては、これを法術で位相空間に転移させてさらに対消滅反応を加速させるなんていう荒業をやってのけるわけですが、それはそれ。ものすごい高温を何とかしないとエンジンが破損してしまうんです。その為に冷却材として使用されるのがナトリウムです」
「お塩を使うんだ」 
「それは塩化ナトリウムです」 
 呆れてアンが口を挟む。シャムはそれを聞いてもまだ分からないような顔をしているので誠は別の切り口から説明をすることにした。
「ともかく熱いままだと触れないでしょ?お鍋とかも」 
「そう言うときは台布巾で……」 
「台布巾は関係ないです!ともかく冷やさないとエンジンのメンテナンスが出来ないから今冷やしている作業中なんですよ」 
 誠はさすがにさじを投げたと言うように叫んだ。今だに分かっていないシャムを見てカウラは誠の説明能力が足りないと嘆くようにため息をついた。
「で……冷やすのになんでそのなとりうむなの?」 
「温度が高すぎるんですよ。水なんかだと高温すぎて安定しませんから」