小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 2

INDEX|23ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

「判断が遅いよ!最悪の可能性で常に慎重に行動。単独行動任務の最低限の原則!」 
『すみません』 
 謝るアンだがまだ敵の攻撃は続いていた。榴弾を発射して時間を稼ごうとするアン。幸い、政府側民兵組織の攻撃が始まり、目標の関心はそちらへと移っていく。そしてアンは自分の機体がまるで破壊されたような姿で川の中に仰向けにひっくり返っていることに気がついた。
『このまま起きていいんでしょうか……』 
「それは自分で考えないと」 
 シャムは教官らしく厳しく言い放つ。その姿になんとなく冷やかしたい気持ちいっぱいという表情の島田が笑みを堪えながらデータの解析を続けていた。
『しばらくはセンサーでの解析作業……振動?』 
 正解を求めて哀願するような視線をシャムに向けるアン。だがシャムは答えることもせずにじっとモニターを見つめている。
「少しは助け舟くらい……」 
「島田君は黙ってて」 
 さすがに見かねて口を挟んだ島田を一言で蹴散らしたシャム。そのやり取りを見てアンは真剣な顔でセンサー類のチェックを開始した。
『二足歩行?……間違いありません!目標一!ターゲット確認しました!』 
「それでは対応行動!」 
 ようやく一機の破壊対象を発見したことで笑顔を浮かべたアンだがすぐに集中した表情で機体を起き上がらせる。破壊されていたと思っていた機体が突然起き上がったということで周りの武装勢力の動きに乱れが生じる。
『距離……1500!一気に接近します!』 
 アンはそう叫ぶと法術を発動させた。空間が切り裂かれ、周りの景色が赤く染まる。
「早いよ……」 
 小さな声でシャムがつぶやく。景色は赤く染まり、その中央に棒立ち状態の敵にアンの機体の右腕から伸びたニードルが突き立てられる。
 ニードルは白い塊の上部に突き立てられていた。次第に空間の時間進行の差異が縮まり、周りが普通の光景になるとその目標がベルルカンなどでよく見られる前世代のアメリカ軍制式アサルト・モジュール『M5』であることが分かった。その胸部の装甲にがっちりとアンの機体の右腕から伸びたニードルが突き刺さっている。
『このまま行動を停止させます』 
 そう言うとアンは機体の左腕を使って暴れるM5の左腕を?いだ。
「やっぱりM5の関節は弱いんですねえ」 
「まあ開発年代が違うからね。でもゲリラや民兵組織が運用するには最低限の資材で動くからあっちこっちで重宝されているみたいよ」 
 島田の質問に答えるシャムの顔に笑顔は無かった。
『目標からの電信です。投降の意思を示しました。このまま……』 
 そこまでアンが言った時、急に機体のバランスが崩れた。乱れるモニター、背部に被弾したことを示すセンサー。
『背後からレールガンの狙撃!背部スラスター損傷!エネルギーバイパス部に20パーセントの損傷!離れます!離脱します!』 
 叫ぶアン。シャムは相変わらず難しい表情でモニターを眺めていた。
「味方を囮かよ……えげつないねえ」 
「よくある手だよ。性能差は当然相手は理解して挑んでくるんだから……このくらい意識しておかないと……アン!退避行動!」 
 シャムの言葉だが慌てるアンには届くはずも無い。法術ブースターの作動にはまだ力の蓄積が足りず、アンはただよたよた機体を後ろに進めながら川の中へと機体を進めた。次々に発射されるレールガンがアンの機体の右腕を吹き飛ばし、頭部にダメージを与えてモニターの一部に欠落が出始める。
『このまま水中に……!膝関節部分浸水!』 
 アラームが鳴り響く。アンは仕方なく水から出るが、今度は先ほどの装甲ホバーからと思われる攻撃は始まった。
「助けてあげないと……このままじゃ戦死ですよ」 
 島田の言葉を聞くとシャムは静かに部隊の執務端末に伝票を打ち込んでいたときとはまるで違う慣れた手つきでキーボードを操作した。
 モニターが暗転する。
『ふう……』 
 アンが大きくため息をついてシートに身を任せる。
「結論から言うと……」 
『分かってます』 
「じゃあ良いよ、降りて」 
 シャムの言葉にアンは手元のシミュレータ装置の電源を切る。シャムの見ていたモニターも暗転した。シャムはそのまま視線をうなだれてコックピットから這い出してくるアンに目を向けた。
「まずアタシが言いたいのは……わかるよね」 
「法術の使用タイミング。焦りすぎました」 
 直立不動の姿勢でシャムに答えるアン。その態度と的確な言葉に感心したようにつなぎ姿の島田がうなづいている。シャムはそれを一瞥すると言葉を続けた。
「初期の情報でアサルト・モジュールは2機移送された可能性があると分かってたよね。なら当然二機が同時に起動している可能性も考えられるでしょ?」 
 シャムの言葉に静かにうなづくアン。シャムはしばらく腕組みをした後、先ほどの端末を起動させて慣れた手つきでキーボードを叩いた。
「今回のミッションの概要。まとめておいたからこれに目を通してレポートお願いね。提出は明日の夕方。大丈夫?」 
「大丈夫です!では……」 
 そう言うとアンは先ほど整備班員達が器用にケーブルと伝って降りていったのを思い出して通路から身を乗り出した。下まで優に8メートルはある。
「止めとけ止めとけ。地道に移動だよ」
 島田がそう言うとアンは通路の手すりから手を離して先ほどのコードの森に向けて歩き出した。
「やっぱり教官経験者は違いますね」 
「正人……茶化さないでよ。アタシだって一杯一杯なんだから。ランちゃんのようには行かないよ」 
「まあ……あの御仁は根っからの教官ですからね」 
 島田はシャムの言葉を聞くと制帽を被りなおしてアンの行った通路とは別の手すりに手をかけて下りていく。
「それじゃあ!」 
「うん!」
 降りていく島田を見送るとシャムはそのままコードだらけの道を進んだ。
「でも……先輩として見本にならないと!」 
 自分に言い聞かせるようにしてそう言うとシャムはアンが消えていったコードの森に足を踏み入れた。
 相変わらず一見不規則に並ぶ太いコードと色とりどりの端子。その間には太いパイプが何かを流しながらうなりを上げている。
『シャム!シャム!』 
 遠くで吉田の叫ぶ声が響く。
「ああ、8キロ走の準備か……」 
 少し照れながらシャムはそのまま狭苦しい通路を塞ぐコード類でさらに狭くなった道をはいつくばって進んだ。
 先ほどの邪魔なコード類をパージする作業で多少は減っているコードの数だが、相変わらず多い。
『シャム!早くしろ』 
 吉田の声が響くがシャムはひたすら貧弱なカバーが取り付けられた端子を避けながら這い続ける。
『俊平……意地悪で急かしてる』 
 口を尖らせてなんとか第三小隊隊長である嵯峨楓少佐の機体のコックピットの前にまで出た。
 作業の関係上、コックピットの前では調整作業や先ほどアンに施したようなシミュレーション訓練のための端末を置くスペースがあるのでケーブルの数が減って立ち上がることが出来る程度の余裕が生まれる。
『シャム!』 
「俊平!何度もうるさいよ!」