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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 2

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 上等兵がそこまで言うと昼休みの終わりを告げるサイレンが隊舎に響いた。シャム達の目の前。ランの一号機に向かう通路には太いケーブルが何本も壁の端子から延びており、そのままそれはランの小柄な体型に似合いの小さなコックピットハッチへとつながっている。その前には頑丈すぎるように見える椅子とモニター付の端末が置かれていた。
「まあヨハンが通れる程度の場所なら俺達なら問題は無いよ」
 そう言うと吉田は静かに通路を歩き始めた。シャムとアンは珍しそうに太いケーブルから伸びる色とりどりの細いケーブルとそのあちこちにつけられた計測機器に目を奪われながら進む。
「第一小隊三号機でシミュレートします?それとも……」 
「俺の機体だと二人には分からないだろ?シャムの奴の機体を使うよ」 
 そう言うとそのまま一号機の取り外したバックパックから伸びる数知れない数のケーブルの下をくぐりながらそのまま四人は通路を進んだ。表側とは違い、あちこちの装甲板がはがされたり半分開いた状態で固定されていることが良く見える。その開いた部分には多数のメモ書きが貼り付けられ、その半分以上からは後ろの壁の端子に向けてコードが延びて機体の状態のチェックが行われていることがわかった。
「こうしてみるとやっぱり整備は大変だね」 
 感心したようなシャムの言葉に先頭を歩いていた上等兵は苦笑いを浮かべながら振り向いた。
「まあ『05式』は特に手がかかる機体ですから。それにうちに出動が出るときは次に整備できる状況が整うのがいつになるか分かりませんからある程度細かいところまでチェックしているんですよ」 
「そうだよね。遼南内戦の時はこんな施設は無かったから戦闘中の故障も多かったし」
 シャムの言葉に実戦経験者の風格を見て取ったのか上等兵の目が尊敬の光を帯びているように見えてシャムはむずがゆい気持ちになった。
「ここからはちょっと気をつけてくださいね。太いコードは踏んでも良いですが細いのはお願いですから踏まないでくださいよ」 
 上等兵がそう言ったのはシャムの白銀の専用機が目に飛び込んですぐのことだった。シャム達がよく目を凝らせば目の前の通路には無数の電線がシャムの白銀の機体から伸びて壁を這うようにして下へと伸びているのが見える。先頭を歩く吉田は自分の義体が優に100キロを超えていることは知っているので慎重に足場を選びながら慣れた調子で進んでいく上等兵の後をついて歩いていった。
「おい!舟橋!」 
 突然の声にシャム達は下を見下ろす。そこには器用にケーブルに足をかけて上ってくる島田の姿があった。
「危ないですよ!島田先輩!」 
「アン……注意は良いから手を貸せよ」 
 通路の縁まで登ってきた島田をアンが何とか通路の中へと引っ張り込む。なんとか立ち上がった島田はそのまま白い技官用作業制帽を被りなおすとそのまま先頭で様子を伺っていた舟橋と呼ばれた上等兵に目を向けた。
「すまないがシンプソン中尉を呼んできてくれ」 
「はい!」 
 舟橋と呼ばれた上等兵は島田の言葉にそのまま走り出す。
「さてと……吉田さんはどんなデータがこの機体から吸い上げられたかご存知でしょ?」 
「まあな。ヨハンから頼まれてた空間管制能力の管理デバイスの修正の結果だからな。俺も関心がある」 
「くうかんかんせいのうりょくのかんりでばいす?」 
 吉田の言葉についていけないシャムは首をひねった。
「お前さんの能力だろ?時間軸をずらしたり、空間の連続性を遮断したり、空間そのものを歪ませて対ショック体勢を取ったり……」 
 続けざまに吉田に指摘されてもシャムはよく分かってはいなかったがとりあえず後輩のアンの手前もあってあいまいにうなづいた。
 吉田は明らかにシャムが自分の言葉を理解していないのは付き合いが長いので分かりきっているのでそのままニヤニヤ自分を見つめてくる島田を無視するとそのままコードの山の中に踏み入った。
「舟橋の野郎も言ってたでしょうが弱そうなコードは踏まないでくださいよ。ナンバルゲニア中尉はいつも機体の腰部に負担のかかる操縦をするからそのあたりの動作パターンデータの収集と同時にこの前菱川のシステム室から内緒で持ち込んだ修正オペレーションシステムのインストール中なんですから」 
 心配そうな島田をよそに吉田は一歩一歩確かめるようにして白銀の機体の腰を取り囲むようにつけられた足場を慎重に進んだ。
「やっぱりナンバルゲニア中尉でも機体の操縦に妙な癖とかあるんですね」 
「アン。エースになればなるほど機体に負担をかける操縦をするもんだぞ。お前さんももう少し俺達を信じて思い切って操縦してくれよ」 
 薮蛇な島田の言葉にアンは思わず頭を掻いて見せた。
「それじゃあ……吉田さん!」 
「おう!」 
 コックピットの前の大きなパイプに腰をかけて吉田は島田とシャムに振り向いた。その背後に手をやって彼はようやくそこにモニター付の端末が設置されていることに気づいた。
「なるほど、これをいじればいいんだな」 
「察しがいいですね。ナンバルゲニア中尉。とりあえずコックピットにお願いします」 
「うん!」 
 島田の言葉にシャムはそのまま跳ねるようにして吉田の前のパイプに飛び乗るとそれが伸びているコックピットのハッチの中に体を滑り込ませる。座りなれたコックピットだが、目の前の計器盤には多数のコードがつながれ、周りに展開されているフルスクリーンは閉鎖不能で早速始動させるがエンジンの起動音も響かずスクリーンのあちこちからハンガーの内部が見て取れた。
「エンジンは無いですから」 
「やっぱり?」 
 舌をだしておどけて見せるシャムに島田は大きくため息をついた。
「島田准尉!」 
 外で女性のか細い声が響いた。
『レベッカだな』 
 シャムはそう思いながら操作レバーを弄る。確かに手ごたえはあるがエンジンが動いていない以上当然機体が動くはずも無い。良く見るとモードはシミュレーションモードで機体の状況を知らせるモニターには各部の負荷のデータが映っているのが見える。
「俊平!」 
「おう、分かったみたいだな」 
 目の前の空間に吉田の顔が映る。おそらくは首のジャックにコードを挿してシミュレータを起動させたのだろう。周りには宇宙空間のような暗い世界が映し出された。
「アン!吉田さんの足元に体感ゴーグルがあるだろ?」 
「はい!」 
「じゃあそれをつけてナンバルゲニア中尉の行動を勉強しろ」 
 島田の声と同時にがさごそと音がするのがシャムからも聞こえてくる。だがシャムは周りの宇宙空間がいつものように珍しくて首をぐるぐると回していた。
「あのー、ナンバルゲニア中尉?」 
「うわ!」 
 振り向いたシャムの後ろに巨大な緑色の二つの球体が現れたのでシャムは思わず叫んでいた。
「レベッカ……驚かせないでよ」 
「ご……ごめんなさい」 
 おずおずとそう言うとなんとか体勢を整えてシャムのシートの隙間に入り込んで眼鏡をなおす金髪の女性。レベッカ・シンプソン中尉はそのまま苦しそうに大きな胸の間に入っていた端末を取り出すと足元の端子に伸ばしたケーブルをつないだ。
「それにしても大きいね」
「きゃあ!」