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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 2

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「そーなのか?まあいいや。先週の起動実験のレポートまとめてくれりゃー帰って良いぞ」 
 だんだん投げやりになるランにシャムは頬を膨らませた。
「それってアタシが邪魔ってこと?」 
「邪魔だな」 
「邪魔としか……」 
 ランとそれまで黙って様子を伺っていたロナルドが答える。その態度がシャムの怒りに火をつけた。
「じゃあ楓ちゃん。アタシは行かないから」 
「え?僕と渡辺だけで行けと言うんですか?」 
 驚いたように楓が叫ぶ。隣の渡辺も困ったようにシャムを見つめている。
「いいじゃねえか。付き合ってやれよ」 
「要ちゃんが行けば良いじゃないの!」 
 シャムはそう言うと要をにらみつける。めったに文句を言わないシャムが怒っているのを見て吉田がいつでも止めに入れるように椅子に手をかけた。
「じゃあ先月の出張旅費の清算書。間違いが有ったよな」 
「中佐、それは俺が直しといたはずですけど……」 
「吉田に聞いてるわけじゃねーよ。再提出できるよな?」 
 ランの言葉にシャムは一気に目を輝かせて自分の端末を開いた。
「それじゃあ僕達は出かけます」 
「おー。がんばって来いよ」 
「お土産待ってるね」 
 楓が出かけるのをランとシャムが見送る。要は時々自分に熱い視線を投げてくる楓を無視してそのまま黙り込んでいた。
「じゃあ……早速頼むぞ」 
 そう言うとランは自分には大きすぎる椅子からちょこんと飛び降りる。
「ランちゃんどこ行くの?」 
「会議だよ……ったくこう言う事はまじめにやるんだな隊長は……」 
 頭を掻きながら123cmの小さな体で伸びをしながら部屋を出て行くランを部隊員はそれぞれ見守っていた。
「会議?」 
「あれじゃねえか?来月の豊川八幡宮の時代行列の警備とか」 
 不思議そうなロナルドにすっかりオフモードの要が答えた。だがそれでも理解できないと言うようにロナルドは首をひねる。
「うちね、去年部隊が創設されたときに隊長が自分の家の鎧とか兜とかを着て見せて祭りを盛り上げる約束をしたの」 
「そう言う事だ。まあ実際嵯峨家の家宝の具足は今一つ叔父貴の趣味にあわねえとか言って全部叔父貴のポケットマネーで隊のほとんどの鎧兜は新調したんだがな」 
 要の言葉に瞬時にロナルドの目に輝きがともった。それを見て要はまずいことをしたと言うように目をそらした。
「それは……俺達も鎧兜を?」 
「うん!多分みんなの分も作ってくれるよ」 
 元気に答えるシャム。ロナルドも思いがけない思い出作りができるとすっかり乗り気でシャムに質問を続ける。
「侍の格好か……あれかな、キュードーとかも見れるのかな?」 
「キュードー?」 
 突然英語のような発音で言われて戸惑うシャム。めんどくさそうに要は手元の紙に『弓道』と書いてシャムに手渡した。
「弓だね!それは名人がいるよ!」 
 シャムの言葉に気分を害したと言うように要がうつむく。
「もしかして西園寺大尉が?」 
「違うよ、隊長。隊長の家の芸が流鏑馬なんだって」 
「やぶさめ?」 
 不思議そうでそれでいて興味津々のロナルドに嫌々ながら要が口を開いた。
「馬を疾走させながら的を射抜くんだ。結構慣れとか必要らしいぞ」
「隊長が……あの人はスーパーマンだな」 
 ロナルドは感心したように何度と無くうなづいた。それを見ている部下のジョージ岡部大尉とフェデロ・マルケス中尉はすでに知っていると言うような顔でロナルドを見つめていた。
「でもなあ……叔父貴がスーパーマンだとスーパーマンがかわいそうだな」 
「確かにね。あんなに汚い部屋に住んでるんだもんね」 
 シャムの言葉にロナルドはうなづいた。
 隊長室。そこは一つのカオスだった。趣味の小火器のカスタムのために万力が常に銃の部品をはさんでいてさらにそこから出た金属粉が部屋中に散らかっている。かと思えば能書で知られることもあって知り合いから頼まれた看板や表札のためにしたためられた紙があちこちに散らばる。そして常に書面での提出を求められている同盟司法局への報告書の山がさらに混乱に拍車をかける。
「まあ芸が多いのと部屋を片付けられるのは別の才能だからな」 
 ロナルドは納得したように席に戻った。
「それにしても……誠ちゃん大丈夫かな」 
 話を変えてシャムはそのままにやけながら要を見つめた。
「何が言いてえんだ?」 
 明らかに殺気を込めた視線で要はシャムをにらみつける。
「だって東都の病院でしょ?警察とか軍とか誠ちゃんの秘密を知りたい人達の縄張りじゃないの。下手をしたら隊長みたいに解剖されちゃうかも知れないよ」 
 シャムの豊かな想像力に要は大きなため息をついてシャムを見上げた。
「解剖か……」 
「俺がですか?」 
 突然の声に驚いて振り返る要。そこにはつなぎを着た技術部整備班班長の島田正人准尉が立っていた。
「ちゃんとノックぐらいしろ!」 
「しました。気づいてないのは西園寺さんくらいですよ」 
「アタシも気が付かなかったよ!」 
「ナンバルゲニア中尉は……まあいいです」 
 そう言うと島田はディスクを一枚シャムの前に差し出した。
「何?これ」 
 シャムの言葉に大きく肩を落とす島田。そして要に目をやる。要は自分が話しの相手で無いと分かるとそそくさと自分の席に戻って書類の作成を開始していた。
「先週の対消滅エンジンの位相空間転移実験の修正結果です」 
「エンジン?あの時はちゃんと回ったじゃん」 
 抗議するような調子のシャムに大きくため息をついた後、島田は頭を掻いてどう説明するか考え直しているように見えた。
「無駄無駄。どうせシャムにはわからねえよ」 
「要ちゃん酷い!アタシだって……」 
「じゃあ対消滅エンジンの起動に必要な条件言ってみろよ」 
 要にそう言われると黙って何も言えないシャム。フォローしてやるかどうか考えている吉田は黙って動くことも無かった。
「まあぶっちゃけ理屈が分からなくてもきっちり成果はありましたと言うのが結論なんですがね」 
 島田はそう言うとそのまま立ち去ろうとする。シャムは首を捻りながら相変わらず対消滅エンジンの理論を思い出そうとしていた。
「ああ、解剖なら最適の人材がいたな」 
 何気ない要の一言にびくりと驚いたようによろける島田。それを見てさらに要はにんまりと笑って立ち上がりそのまま島田の肩を叩いた。
「やっぱり俺を解剖じゃないですか!」 
 島田が叫ぶが誰一人として要の軽口を止めるものはいない。
「だって……」 
「なあ」 
 岡部もフェデロも島田が解剖されるのは当然と言うような顔で島田を見つめている。
「死なないんだろ?貴官は」 
 ロナルドの言葉が島田に止めを刺す。うつむいてうなづく島田。確かに彼は本当に不死身だった。