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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 2

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 入り口にたむろするさまざまな色の髪の運用部の女性士官達から離れたところで金髪の長い髪をなびかせながら眼鏡をかけた士官がブラウスを脱いだたわわな胸を見せながら声をかけてきた。
「レベッカは日勤?」 
「そうですけど……」 
 シャムが隣のロッカーを開けるのを見ながらレベッカ・シンプソン中尉は珍しそうにシャムを眺めていた。
「うー」 
 しばらくシャムはレベッカを見つめていた。レベッカは気が弱そうにワイシャツを着ながらもしばらくシャムの方を観察していた。
「どうしました?」 
「これ!頂戴!」 
 そう叫んだシャムがレベッカの胸を揉んだ。
「何するんですか!」 
「ねえ!頂戴!」 
「無理ですよ!」 
 シャムをようやく振りほどいたレベッカが眼鏡をかけなおしながらシャムを見つめる。シャムはにんまりと笑うとそのままジャンバーを脱ぎ始めた。
「でも……シャムさんも大きくなれば……」 
「大きくならないから言ってるの!」 
 レベッカの言葉に少しばかり腹をたてたというように口を尖らせながらシャムは着替えを続けた。仕方なくレベッカも黙ってワイシャツのボタンをとめていく。
「そう言えばナンバルゲニア中尉の機体ですが……」 
「レベッカちゃん。ナンバルゲニアなんてよそ行きの言い方は駄目!『シャムちゃん』て呼んで!」 
 ようやく吹っ切れたという笑顔のシャムが上着に袖を通しながらレベッカを見つめた。
「じゃあ、シャムちゃんの機体ですが……あんなにピーキーにセッティングしてよかったんですか?操縦桿の遊びも設定可能領域ぎりぎりですよ……」 
「ああ、あれは隊長の助言だよ。隊長の機体は遊び0でしょ?だから私も真似してみたの」 
「そうなんですか……でもこれから調整もできますから。もし必要ならいつでも声をかけてくださいね」 
「心得た!」 
 シャムはそう言うとそのまま制服の上に制服と同じ素材でできた緑色のどてらと猫耳をつけるとそのまま更衣室を出た。
 シャムはそのままスキップするようにして階段を駆け上がった。扉の開いた医務室では先ほどはシャムにびくびくしていたはずのドムがすでにお決まりの白衣を着て伸びをしながらシャムを見つめていた。
「早くしろよ!」 
 顔を真っ赤にしたドムの声に手を振るとそのまま廊下をスキップして進む。男子更衣室からは次々とつなぎを着た整備班員が吐き出される。
「みんなおはよう!」 
 元気なシャムの声に苦笑いとともに手を振りながら隊員はそのままハンガーへ続く道を走る。
「今日は姐御は待機だからな……アイツ等も少しは楽できるだろ」 
 コンピュータ室のドアに体を預けて立っていた吉田にうれしそうにシャムはうなづく。
「おい!シャム!吉田!早くしろよ!」 
 実働部隊の執務室から顔を出して叫ぶ要。シャムと吉田はその声にはじかれるようにして部屋に飛び込んだ。
「ぎりぎりセーフ!」 
「いやアウトだ」 
 シャムの言葉を一刀両断するラン。彼女は先日の誠達が解決に道をつけた違法法術発動事件の報告書の浮かんでいるモニターから目を離そうとしない。
「それランちゃんの時計ででしょ?私の時計は……」 
「秒単位での狂いなんてのは戦場じゃよくある話なのはテメーが一番よく知ってるだろ?アタシはここのトップだ。アタシの時計がうちの時計だ」 
 淡々とそう言うとシャムは明らかにその小さな体にしては大きすぎる椅子の高さを調節する。
「災難だな」 
 シャムが自分の席に着こうとすると後ろの席の要がニヤニヤ笑いながらシャムの猫耳をはじいた。
「それにしても……」 
 吉田がそう言ったのは明らかに場違いな格好をしている人物がいたからだった。彼女の姿は猫耳にどてらと言うシャムの姿の遥か上を行っていた。
 赤い鳥打帽にチェックのベスト。本皮のパンツに黒い同じく皮のブーツを履いている。
「楓ちゃん……」 
「何だね、ナンバルゲニア中尉」 
「猟に行くの?アタシを置いて」 
「先週話したはずですよ。忘れてたんですか?」 
 第三小隊小隊長嵯峨楓少佐の身なりに呆然としていたシャムだがシャムの言葉で今度は驚いたのが楓だった。
「今日は午後から猟友会の猪狩です」 
「あれ?そうだったの?ランちゃん……」 
 シャムは助けを求めるようにランを見る。ランはため息をつくとそのまま吉田に目をやった。
「半日休暇届。出てましたね」 
「でてたな」 
「そうだったの?」 
 改めてランが溜息をつく。
「いいねえ……午後から優雅に猪狩か……貴族の楽しみじゃねえか」 
 茶々を入れる要。そんな要を見て楓は目を輝かせた。
「お姉さまもいかがですか?」 
 楓の『お姉さま』は強烈だった。つややかな響きのその言葉に要が凍りつく。それまでは自分の事務仕事に集中していた第四小隊のロナルドが低い笑い声を立て始める。
「な、な、なんでアタシが野山を駆け巡らなきゃならねえんだ?それに午後はうちの御大将と落ちこぼれ隊員一号が帰ってくるんだから無理だよ!」 
 押し切るようにそう言うと要は楓の熱い視線を無視して目の前のモニターで書類の作成を開始する。
「それならかなめちゃん……じゃなくて渡辺さんは……ってその格好は来るんでしょ?」 
 楓の部下で付き合いの長い渡辺かなめ大尉は青いボブカットの上に青いベレーをかぶっている。
「ええ……楓様と一緒なら私……」 
「かわいいな、かなめ……」 
「楓様……」 
 思わず手を握りあう楓と渡辺。その姿に部屋の中の空気がよどんだものに変わった。
「要ちゃんいる!」 
 全員が助けを求める中に救世主のように現れたのはいつもはくだらない馬鹿話をするだけに来るアイシャの姿だった。いつもなら怒鳴りつけて追い返すランですら感動のまなざしをアイシャに向けていた。
「ここにいますよー」 
 何とか一息ついた要が手を振る。アイシャは雰囲気をつぶされて不愉快そうに自分をにらみつけてくる楓を見るとニヤニヤ笑いながら要の所まで来て大きなモーションで肩を叩いた。
「分かるわ……要ちゃんの気持ち。本当によく分かる……恋ってつらいわよね」 
「おい!何が言いたいんだ?」 
 アイシャの言葉に要の声が殺気を帯びた。
「誠ちゃんも気になる。でも自分を愛してくれる楓ちゃんも……」 
「ふう……」
 感情を抑えるべく要は大きくため息をついた。
「腐ってるな、テメエの脳は」 
 要はそれだけ言うと自分の端末に向き直って作業を再開した。
「それよりクラウゼ。良いのか仕事は?……ってよくねーみたいだな」 
 ランの声を聞きながらその視線をたどってみれば入り口で戻って来いと手招きをするサラとパーラの姿が見えた。
「申し訳ありません!それでは失礼します」 
 仰々しく敬礼をしたアイシャがサラ達に連れて行かれる姿を見て室内の隊員はどっと疲れが襲ってくるのを感じていた。
「それにしても……今年もやっぱり被害は多いのか?猪の食害」 
 めんどくさそうにランがシャムを見つめる。シャムはしばらく考えた後口を開いた。
「今年は特にサツマイモがやられちゃったみたい。特に夏から秋は禁猟期だからその時期を狙って降りて来るんだよね」