混浴体験記
海岸の岩場にあるその露天風呂は、大人気のスポットになっていた。小学生から四十代までの男女が、早朝からそこに結集していた。女性は大きなバスタオルを身体に巻き、男は腰だけタオルを巻いて入浴している。全部で十五人程が入れる大きさである。すぐ近くに太平洋の海が見えており、波の砕ける音が大きく聞こえる。時折海からの飛沫が飛んで来たりもする。湯の温度は決してのぼせることのない温度だ。女性も水着なしで裸にバスタオルだから、緊張感がある。
湯に浸かって十分程経ったろうか。中年のカップルと入れ換わりに、真向かいに入って来た母親とその娘の姿を見た竹本の心は、その時点で更に緊張を増すことになった。その二十代半ばの娘は、数年前まで彼の恋人だった女性である。西野香苗というのが、彼女の名前だ。
竹本と視線が合ったとき、彼女はまるで無表情だった。完全に無関係だと、相手は主張している。竹本が妻の表情を伺うと、当然彼女も何食わぬ顔である。
「たまにはこういう温泉もいいものですね」
と、香苗の母が竹本の妻に、笑顔になって云った。
「ここは何時から入れるんですか?」
次いで香苗が、同じく竹本の妻に向かって質問した。竹本は心臓が止まりそうな程、驚かされた。