混浴体験記
「多分、六時半からだと思いますよ」
妻はそう答えてから竹本に眼で確認しようとしている。
「そうですね。六時半からでしょう。今は七時を過ぎましたか?」
それに応えたのは香苗だった。
「七時は過ぎたでしょうね。このあとはどちらへいらっしゃるのですか?」
竹本の妻が割って入った。
「山の方の、滝があるところへ行く予定です。そこにも温泉があるみたいです。滝の名前は忘れましたけど……」
「滝の名前か。たくさんあるんだ。何滝だったかな……」
そのとき、竹本は信じられない光景を見た。岩に腰掛けていた香苗が、バスタオルを広げて巻き直したのだ。そのため、竹本は香苗の全てを見てしまった。それは、付き合っていた頃にもなかったことだ。竹本には、ひどく長い時間のようにも思われた。彼は妻から何か云われそうな気がしたが、彼女は黙っていた。不気味な沈黙だった。
了