見知らぬ女
「男にとっては、仕事だな。好きな仕事を思いっきりやり通した奴が、男としては、一番幸せなんだと思うよ」
金森が居酒屋でハイボールを飲みながら下したのは、そんな結論だった。それは、先週の水曜日の晩のことで、数えてみれば十二日前のことだった。
川村と真里菜が見合いをしたのが今年の春で、ちょうど桜が、あちらこちらで満開になっていた。その下を、ふたりは三十センチ程の隙間を維持しながら並んで歩いた。川村は真里菜の顔を、納得できるまで見ることができなかった。互いの視線が交錯することを、怖れていた。彼は今までの三十年間の人生の中で、女性と凝視め合ったことがないのだった。
「真里菜さんは、すっぴんのほうがきれいなんですね。今日から薄化粧にしてもらえませんか」
真里菜が目覚めたとき、川村は清水の舞台から飛び降りる想いで云った。
「そうですか?じゃあ、旦那様のご要望にお応えしましょうか」
笑顔が素晴らしく可愛いと、川村は思った。
「そんなにきれいなのに、どうして濃くしていたんですか?」