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刻の流狼第四部 カリスアル編【完】

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「須臾と恒河沙に出逢えて良かった。いや、それだけじゃないな。他にも沢山の人に出逢えて、様々な事を教えて貰った」
「でしょ? これからだってまだまだ在る筈だよ。出逢える筈だよ。ソルティーを覚え続ける人がさ」
「そうだな。須庚の言う通りだと思う」
 ただ憧れていただけの生きる強さが、今は自分の中にも在る。
 教えられるのではなく、与えられ育てるもの。
 当たり前の事を当たり前に思える普通を、ソルティーは自分の手の中に掴んでいるのを知った。
 一頻り互いの顔を見て笑った後、須臾が何かを思いだした様に言葉にした。
「なあ、これって基本的な質問なんだけど、ソルティーの国を滅ぼした奴と、そいつを滅ぼす奴等って誰? どんな奴?」
 事の中心を語らなかったのは、彼が隠しているからに他ならないと判っていながら聞いたのは、この際だからという気持ちが大きかった。
「それが言ってはならない事だ。条件付けの一つだから、それ自体を口に出来ない」
「また秘密かよ」
 多少の皮肉は言わせて貰うと心の中で呟き、彼一流の言葉を待った。
 真実を聞きたいとも、嘘を聞きたいとも思わない。ただ、此方が出した言葉に対しての素直な言葉が欲しいだけだ。
 須臾の気持ちを汲み取る様に、ソルティーは考える事無く答えを出す。
「私自身の問題で済むなら教えられるが、彼女達はその名前自体が問題だから。その名、存在を知るのは、死者と彼女達に条件付けされた者だけだ」
 死者はソルティーとミルナリス。条件付けされた者とはハーパーとディゾウヌ。但しディゾウヌに関してはあくまでも瑞姫個人の知人であり、ハーパーの様に彼女達を依代とする者と関わる者ではない。
 何時も通りに話せない事の理由を、須臾の判断出来るギリギリの線で話す。
 聞きながら思うのは、
――信じたくないのに……。
 こんな落胆に近い言葉だった。

 ソルティーの感じる不安や悪い予感は、笑えるくらいに良く当たる。そして彼の行く先々では、必ず大きな問題が待ち構え、それ以上の存在が居た。
 最初は聖聚理教だった。これから引き起こされる戦を前にして、その道筋を任された。それだけでも物凄い事だというのに、その後に二人のミルナリスを知り、魔族の知り、アストアの王にまで会った。
 もうここで終わりだろうと思えば、次には妖魔という得体の知れない敵に遭遇し、決して人とは相容れなさそうな神のような高位精霊も見た。
 残っているのは最早、神だけだと言えるだろう時点で、それを前にしても彼は不安を抱えている。絶対にもうこれ以上の者など居ないはずなのに、彼の見ている現実が違うと告げる。
 恐いのはこんな現実的でないソルティーの話が、現実となっていつか目の前に突き付けられる予感を感じてしまう事だ。
 にもかかわらず、須庚は問い掛ける口を止められなかった。
「それって厄介な事? その、名前を知られるって事は」
 性格的には聞きたくないが、ここまで聞いてしまったのと好奇心が半々在る。
「厄介……。そうだな、そう言えなくもない」
「たはぁ〜〜」
「しかしそれは私達にとって厄介な事ではなく、向こうが厄介だと感じるだけの話だ。それに、私がその厄介を彼女達に与えたいと思える程に、彼女達を嫌っていない」
「……ふーん。なんだか判らないだらけの話だけど、まあ良いでしょう。納得してあげましょうではありませんか」
 ソルティーから空に向かって視線をあげ、調子の良い言葉で気分を変える。
 最近特に重苦しい雰囲気が続いたのは確かで、それが今は少し減った。
 須臾のは理解出来ない荒唐無稽の話だが、ソルティーがそれを自分に話した事で少しでも重荷を下ろしているなら、彼にとっての真実がその中に在る。
――信じるも信じないも自分次第か。
 ディンクに教えられた、やって見なければ結果は判らないと言う事。
「遠回りでも結果良ければ総て良しってね?」
 一人納得して語りかけられソルティーは何の事だかと首を傾げ、その姿を須臾は笑う。
「まあそう言う事」
 矢張り何の事だか判らない。
 須臾に疑問を投げ掛ける前に、彼は勢いよく地面に倒れ込んで体一杯で空を感じる。
「そう言えばさあ、これは僕の話だけど、何でソルティーは僕が呪紋使った時、少しも驚いてくれなかったんだけど、どういう訳?」
 別にどうしても聞きたかった訳ではなかったが、気分を変えたかった。その為には、どうしても沈黙は避けたかった。
 そうして切り出された須臾の魔法は、いわゆる切り札だ。
 危機に陥った仲間を、颯爽と登場して助けるのが須臾の理想だった。それがあの時のソルティーは、目の前に現れた高位呪紋を平然と見て、須臾が現れたのも至極当然に受け取っていた。
 結構期待はずれで虚しい登場になってしまったので、少々寂しい須臾だった。
「僕言ってなかったよね。彼奴にも口止めしていたし……」
 まさか恒河沙が自分の壮大な計画をぶち壊したか、と思いを過ぎらせる須臾に、今度はソルティーが笑う。
「忘れたのか?」
「何を?」
 憮然とする須臾に、ソルティーは宝玉を取り出す。
「お前、前金でこれを手にした時、“自分の呪文”で調べていたんだぞ」
「………ああああああああああああっ!!」
 ソルティーは、叫び声を上げながら一気に起き上がった須臾に、肩を震わせて笑いを堪えた。
 普通は魔法や呪文が使えなければ、どんな事にでも封呪石を用いる。真偽鑑定でも一般の者なら小さな封呪石を使い、大抵誰でも必要最低限の封呪石を肌身に付けている。
 なのに須臾はあの時、あまりの事に我を忘れて呪文だけを使った。この事でソルティーは初めから、彼が魔法か呪法を使える者だと判っていた。
「それに、シャリノの屋敷で、私を塵にまで分解すると言って、雷の魔法を使ったじゃないか。まさかそれも忘れていたのか?」
 しかもその一度現した魔法を須臾は自分で消したのだ。
 普通は一人では出来ない魔法の相殺を、彼は簡単にしていた。だからソルティーは須臾を並々ならない力の持ち主だと認識していた。
「……驚いた方が良かったのか?」
 隠しているとは思っていたが、須臾の計画までは思いつかなかったので、素直に悪いと思ったのだが、これも彼には追い打ちとなったのは間違いない。
「そんな同情は止して……。はぁぁぁ〜〜〜、すっかり忘れてた。これじゃあどこぞの馬鹿とおんなじだぁ〜〜」
 がっくりと肩を落とし、何度も長い溜息を吐き出す。
 一年以上にも渡って築いてきた計画が、まさか自分が一番始めに壊していたなんて、一世一代の大失敗だ。
――こんな事なら森で使っていれば良かった。
 切り札とは最後の最後で使う物だ。後のなる程値打ちも上がる。
 ソルティーが必死に堪えようとして、堪えきれなかった笑い声を聞きながら、誰にも当たれない状態にますます落ち込んでいった。





「んじゃあさ、僕は彼奴の食料買ってから向かうね」
 エニの入り口でブリュートを放し、街の中程まで来てから、須臾がソルティーの背中を押した。
 何かを言いかけるソルティーよりも先に手を振ると、さっさと手近な店に入ってしまった。
「……ったく」