刻の流狼第四部 カリスアル編【完】
「リタが良い。僕がリタを幸せにする」
彼女の肩を掴んで、須臾は訴えた。
「それは無理よ。須臾には決して私を幸せには出来ない」
そんな一際冷めた言葉は素早く返され、夢を語る子供を真っ直ぐに拒絶した。
須臾が感じたリタの心は、言葉を信じていないのではなく、それを受け入れられない何かを感じさせ、次の言葉を失わせた。
「私が幸せにして欲しい人は、須臾ではないから。須臾は、別の人を捜して」
リタの言葉に須臾は首を振った。けれど何も言えなかった。
言いたい言葉は一杯在る。リタの想う男を謗る言葉、自分を信じて欲しいとする言葉。在りすぎて言えない胸の支えが気持ち悪いほど在る。
言ってしまえば楽にはなるが、惨めにもなるだろう。
だから何も言わずに首を振るだけにした。
episode.32 fin
作品名:刻の流狼第四部 カリスアル編【完】 作家名:へぐい