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刻の流狼第四部 カリスアル編【完】

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 相変わらず役目は役目として横に置き、恋路だけは邪魔はしたいミルナリスに、直ぐにそれを受けてしまう恒河沙。
 あまり耳元で騒がれたくなかったソルティーも、嫌でもこの状況に慣れてしまっては、気軽に口を挟む気にはなれない。
「んまぁ! 少し位は私の忠告に耳を傾けてはどうですの」
「何処が忠告だよ。そんなに誰かに忠告したかったら、その兎にでもしてろよ」
「乾燥脳のくせに!」
「キキンカ婆よりマシだ!」
「キッ……キキンカですって?! 私のどこが干物に見えるんです!!」
「あの煮ても焼いてもどうしたってくそ不味い所とかそっくりだ!」
「ま……まあっ、まあっ!! 私がキキンカでしたら、貴方は差しずめイセーニの揚げ団子ですわね」
「美味いじゃないか」
「ちっちゃくて中はスカスカ」
「何だとーーーーーーーーーーー!!!」
 微笑ましいのか、馬鹿馬鹿しいのか。
 どうでも良い二人のやり取りを、後方から退屈そうに見守る須臾は、ぽつりぽつり樹木の植えられた周りの景色に目を走らせる。
――湖か……。
 五日前の夜に恒河沙からワズルの説明を聞き、地図でその場所を確認した。
 それ程離れていないその湖は、二日も有ればなんとか往復できる。そう思って恒河沙の我が儘に須臾は肩入れして、エニ行きをソルティーにそれとなく示唆した。
――呼べれば良いんだけど。
 火の精霊神ツァラトストゥラのお膝元で、何処まで出来るかは須臾にも判らない。
 しかし、此処を逃せばと言う気持ちで一杯だった。
「……ん?」
 ふと何かを見た様な気がして足を止めた。
「如何した」
「あ……いや、何でもない」
 須臾の視線の先には何もない、地平が見えるだけだ。
 変な気配が周りに無いのを確かめてからまた須臾はのんびり歩き始め、ハーパーも周りを見渡した後直ぐに前を向いた。





「来たよ来たよ。わざわざ人形からやって来た」
 喜び跳ね回る子供の様な言葉。それは、須臾には聞こえなかった。


episode.31 fin