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刻の流狼第四部 カリスアル編【完】

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 たった五年でも、深く繋いだ絆はそう簡単には無くならない。そんな温もりがあった。
「でもよう、アガシャは何処に消えたんだ?」
 グリシーンが腕を組んで首を捻ると、周りも眉を寄せた。
「俺はアガシャが消えた話を聞いて、てっきり記憶が戻って住んでた国で静かに暮らしているとばかり思っていたが…」
「いや、多分その頃にシスルに来たんだよ。――どうしてかは知らないけど」
 恒河沙からケトカ達に目を移し、須臾は結局、阿河沙が自分の事を語らなかった事に結論を出した。
 言いたくても言えないのは、恒河沙と一緒だったのだ。
 須臾の知る阿河沙は、彼等の誇らしげに語る伝説の勇者ではない。
 のんびりと田舎暮らしを満喫して、暇な時は子供に剣の型を教える。傭兵と言う生業でもなかった筈だ。
 日々の暮らしに困らない程度の蓄えを持っていたのは、此処で稼いでいたからに違いない。ただの暇そうな、でも格好いい不思議な阿河沙像は、結局ここでも壊される事はなかった。

 その後も、阿河沙のこの街での暮らしぶりやシスルでの生活を、須臾とケトカが中心になり話を弾ませるだけに終わり、最後には押し切られる様に彼等の家に泊まる事になった。
 ソルティーは彼等の話に参加はせず、ずっと他の事を考えていた。
 姿を隠しているミルナリスから微かな動揺が伝わり、それがどうしても気に掛かる。その彼女の気配が完全に消えた時のケトカの言葉はこうだった。
「でもよ、彼奴がこの街を出る前に、なんかする事が有るんだって言っていたな。それが何かは思い出せないが、確かに有る筈だって」
――心当たりが有ると言う事か。
 干渉の理を犯しても自分の傍に居たいと言った彼女の真意が、他にもあるとは感じていた。
 普通の精霊なら決して行えない事を、平気で行う成長をしない彼女。
 逸脱した彼女の力と自分の立場を考えれば、裏があるのは直ぐに判った。
 問いたださなかったのは、そうしても結果が変わる事がないと知っているからだ。
――しかし、事が恒河沙に関係するなら、そうも言っていられないな。
 ソルティーに精霊は関われない。
 彼の後ろに控える存在が、それを許さない。
 その精霊のミルナリスが自分に接触をしたきっかけが、もし恒河沙であるならば、今までの様に彼女を野放しにする事が危ぶまれた。
 ミルナリスには感謝はする。それでもソルティーには、恒河沙以上に大事な存在は無い。
 ケトカ達の造った剣を目を輝かせて見つめる恒河沙を、ソルティーは穏やかに見守りながら、これから予測される様々な事柄を脳裏に過ぎらせ続けた。


episode.29 fin