恋愛掌編集
小さい秋
「ちいさいあーきーちいさいあーきーちいさいあーきーみーつけたー。」
「違う違う。」
「え?」
「だーれかさんがーだーれかさんがー。だ。」
「あーそっかー。」
そう言って彼女は椛の赤くなった葉を一つ摘んだ。
「どうすんの、それ。」
「んー押し花にでもしようかな。」
彼女は柄を持って葉をくるくる回してみせる。
「押し花?」
「押し花。」
「花?」
「無粋って言葉知ってるう?」
「ワタシニホンゴワカリマセーン。」
「Oh if so Ummm... Do you know the word inelegance?」
「そこで英語というのも無粋じゃないか?」
「じゃあ何?」
「フランス語あたり?」
「聞かれてもなー。」
「じゃあ、フランス語で。」
「私、第二外語ドイツ語。」
「大丈夫、君なら出来る。」
「ま、天才ですから。」
「ないわ。それはない。」
そう言った直後、折れた枝を投げ付けられた。
「ところでさ、さっきから私ばっかり集めてる気がするんだけど。」
「ん?何がだ?」
「だから、落ち葉。集めてたき火するんでしょ。」
「大丈夫、君なら出来るよ。」
「出来るけど、手伝ってよー。」
「最近はたき火もしちゃダメらしいよ。」
「大丈夫、許可取ってあるから。」
「何て?」
「郷土文化における祭の意義についての実験。」
「で、芋焼くの?」
「うん。昔の人集会とかでたき火ぐらいしたでしょ。」
「それでおっけーなの?」
「おっけーなの。」
「大学万歳だな。」
「だねー。」
「先輩もやったんだっけ。」
「毎年らしいね。」
「なにやってんだ、この学科。」
「たき火やってんじゃない?」
「10点。」
「たき火にしてあげよっか?」
そう言って彼女はライターに火を付けた。
俺は丁重にお断りした。
「ところでさ。押し花って何にすんの?」
「しおりとか。」
「本読むの?」
「あー、じゃあ、読もうかなー。」
「じゃあってなに。」
「なんか本貸してよ。」
「どんなのが良い?」
「読みやすいの。」
「読みやすいのね。としょかんライオンとか。」
「面白い?」
「面白いよ。」
「じゃあ貸して。」
「良いけど。でも怒るなよ。」
「別につまらなくても怒らないって。」
「その言葉、信じる。」
後日、資料室の槍を持って追っかけられた。
警備員に捕まった彼女は、戦国時代の研究の一環だと言い張っていた。