恋愛掌編集
サディスティックシンドローム
「君の脳みそは虫が湧いて、更にそれすら死んでるね。」
担任教師の桂木先生が一枚の紙をつまんで、ひらひらと舞わしている。
私の中間テストの答案用紙だ。
「先生、それどういう意味ですか。」
「それがどういう意味だから分からないような人間だと言うことだよ。」
「はあ。」
この先生は、いつもよく分からないことを言う。
でも、なんとなく馬鹿にされていることは分かった。
いつものことだから。
「それで、君を放課後残した理由だけど、分かってる?」
「愛の告白ですか?」
「可哀想を通り越して悲惨だね。」
やれやれと、先生は頭に手を当てる。
いつも気難しい顔をしている先生だけれど、その時はちょっと可愛く見える。
友だちは、余計怖いって言うけれど。
「中間テストの国語の点数を憶えている?」
「えーっと………。」
「……。」
「……。」
沈黙が重たい。
「17点。」
「ああ、そうそう、そうです。」
「さて、お聞きしますが赤点は、何点からでしょうか。」
急に敬語になった、いつも通りなら、これは多分怒ってるんだろう。
「いやあ……。」
はあっと先生は強くため息をついた。
「プリントは渡したよね。目は見えてる?」
「先生の顔を説明してみましょうか?」
「どうぞ。」
「格好いいです。」
「つまり、君は記憶回路がズタズタなんだろうな。」
あ、無視された。本心なんだけどな。照れてくれもしないや。
「赤点は30点から、つまり国語は赤点。補習だ。」
「そうなんですか。」
「国語の他にも、英語25点、数学22点、化学28点。」
「凄いですね。」
「ああ、凄いよ。駄目さ加減に底が見えない。」
「頑張ってください。」
「頑張るのは君だよ。赤点で補習なんだから。」
「え、そうなんですか?」
「俺がそういう説明を今し方したと言う記憶があるのは、幻覚剤でも飲んだのだろうか。」
先生が窓の方を向いてしまった。何となく諦めの雰囲気が漂っている。でも、先生はいつもすぐにやる気を出して、私の方を見てくれるのだけれど。
「まあ、とりあえず、このプリントをやれ。」
そう言って、先生は何枚ものプリントを渡してきた。国語、英語、数学、化学。それぞれのプリントがあった。先生の方に目をやると、やれ、目がそう言っていた。怖い怖い。
カリカリとシャープペンシルを動かして、プリントに答えを記入していく。何だか思ったよりも簡単だ。簡単と言うより分かりやすいような感じがする。
「ねえ、先生。」
「手を動かせ。」
「補習で良い点とれたら私と付き合って。」
「君みたいな屑と付き合ったら人生破滅するよ。」
「ひどいですねえ。」
「ああ、俺は酷いよ。」
私は書き終えた国語のプリントをのけて、英語のプリントを手に取った。
まったく、本当に馬鹿だ。教師と生徒が付き合えるわけもないのに。本当に愚図だ。俺なんかは酷い奴だとさっさと諦めればいいものを。
そうすれば諦めがつくっていうのに。