恋愛掌編集
未来へ遡る
「本来世界は過去に進んでいっているのではないだろうか。」
そんな彼女の言葉に、俺は曖昧に返事をした。
彼女はいつも大事な話をするときに変な前置きから話し始める。
最近はそれに馴れてきた。
彼女なりの心の落ち着け方なのだろう。
「どうしてそんなことを思うんだ?」
「世界の始まりが無と言うのは定説だな。」
「らしいな。」
「だが、始まりが無というのは想像付かないのだよ。始まりが無?一点が一気に広がった?」
彼女はペンを取り出すと紙ナプキンを取り、点を書いた。
ペン先で点と無地の場所を交互に指し示す。
「無が点になるとはなんだ。分かりにくい。だから考えたのだが、始まりは実は終わりではないのか。宇宙がどんどん小さくなり消えて無くなる。それなら分かる。」
「ふむ。」
分からないが分からなくもない。
宇宙の始まりなど本当のところ、どの科学者もまだ正しいことは知らない。
「しかし、そうだとして世界はどうして過去が消えるようにしたんだ?未来が縮まれば良いだろ。」
「ジグソーパズルという物があるだろう。」
彼女は紙ナプキンを幾つかに千切り、それを元の形に戻るようにおいていった。
「あれは散らばった状態から、本来の状態に戻していくと言うオモチャだろう?あれと同じように、世界は拡散した状態から段々元に戻っていき最終的に極小さなものに成るための物ではないだろうか。」
「世界はオモチャか?」
「神様がいるならそうかもしれないな。」
流石に神様が出てくると、それは理論ではなくオカルトだろうと思った。
「だとしても、俺らは今未来に行ってるように思うんだが。それは?」
「迷路を考えてみてくれ。」
ちぎれた紙ナプキンの一つに簡単な迷路を書き込み、線を入れていく。
線は行き止まりで止まった。
「もし道を間違えたら、戻ってやり直すだろう?それと同じように私達は今間違いをやり直すために未来に遡ってる。そうは考えられないだろうか。」
「まあ、そう言うこともあるかも知れないな。」
証拠もないので賛同はしないが、そう言う考え方も出来るかも知れない。
「で、結局何が言いたいんだ?お前はいつも前振りが長い。」
「うむ。考えたのだがな。つまり、いつ世界は過去に戻っていくか分からない。もしかしたらこれ以上未来には行けないかも知れないだろう。」
「それはいつ死ぬか分からないって言っても別に良いんじゃないか。」
「確かにその通りだ。」
彼女は恥ずかしそうに頭をかいた。
彼女はいつも通り不遜な態度だったが、先ほどから妙にそわそわしている。
「で、何?」
「つまりだな、言いにくいのだが、覚悟を決めて言わねば成らないと思ったのだよ。」
「なにをだ?」
「どうやら、私は君のことが死ぬほど好きみたいなのだのないたみい憎どほいたし殺がとこの君は私、らやうど」