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刻の流狼第三部 刻の流狼編

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「それは……オレアディス様の名前が付いている奴は、何でも欲しいから……。兎に角あれだよな、あたし達の事がそこそこ知れ渡ったら、今度は兄さんの力が有名になっちまって、手配書の内容が生死不問から生け捕りに書き換えられた。それが二年前の話」
「君達以外に仲間は居るのか?」
「……居るけど、本当に盗みをしているのは、あたしと兄さんとベリザだけだ。後はみんなまだ子供だから、見張りをさせる位しかさせてない。ただ、別に盗賊仲間を増やしてる訳じゃない、食うに困ってる奴等をほっとけないだろ」
「この国の?」
「此処の孤児院は名ばかりだ。毎年どれだけの餓死者が出てるか……」
「残している子達は、まだ大丈夫なのかい?」
「そう簡単にばれる場所に隠れ家は造ってない。他の国にあるからね。それにベリザが動ける様になったら、そっちに向かって貰う手筈になってる。あたし達が戻らない時の話しも前から決めてるし、直ぐに飢える様な蓄えは置いてない」
「そうか」
 余程周到な用意をして仕事に出掛けるのだろう彼女の言葉は、自信と誇りに裏打ちされはっきりとしている。その言葉にソルティーは感心し、ハーパーも言葉無く頷いた。
 力のない子供を護る。それをまだ若い、しかも子供達とは縁もゆかりもない彼女達がそれをするのは、並大抵の決意や決心が無ければ行えない。言い換えればそうしなければならない環境が、嫌でも見え隠れしている。
 ソルティーは言葉にして彼女の勇気を褒め称えたかったが、彼女にとって当たり前の事を改まって言う事は避け、話を本来の道に戻す事にした。
「さて、此処からが重要なんだが、神殿にはどうやって忍び込む?」
「……そうなんだよ、それなんだよね。あたし達の盗みって殆ど兄さん一人でやってたもんだし、時が時だから厳重に警備がされていると思うから……」
 頭を抱えてテーブルに突っ伏した彼女に、全員の視線が集まる。
 彼女が何か良い案を出すのをじっと待ったが、その当ては外れた。
「仕方ない、ガバウィに着いてから考えよう。下手に嗅ぎ回って疑われては厄介だ」
 結局ソルティーのこの言葉に全員が賛同して食事に戻った。
 しかし、ろくな手順が決まらない状態を、ソルティーやハーパーは勿論、須臾も危惧はしていた。
 行けば何とかなるだろうと安直に考えられたのは、当事者であるミシャールだけだろう。当然恒河沙は、食事に夢中で話を聞いてもいなかった。



 ガバウィに到着した一行は、まずレス・フィラムス教団の神殿へと向かう事にした。
 しかし街の外で一端足を止め、神殿に向かったのはソルティーとミシャールだけだ。
 街の整然とした様子を確認してから、他の参拝者に混じるように神殿へ入り、ずらっと並べられた椅子の後ろの方に腰を下ろす。
 多くの信者の手には寄付と思われる袋が握られ、全体的に商売人と思われる者達が顔を連ねていた。聖聚理教の神殿で見た様な神聖な雰囲気は無く、領主に土地代を納めると言う例えの方が程近い有様だ。
 そんな周囲にソルティーが妙な納得を感じ始めた頃になって、礼拝堂の前方に一人の男が多くの部下を引き連れて現れた。
 やはりこれもとても神殿で見たい光景ではなく、煌びやかな装束を纏った男の目付きは、一見でも異常にギラギラとしていた。そして耳障りなほどに甲高い声で、ツァラトストゥラの教えを説き始めた時、ミシャールが驚きに目を見開いた。
「彼奴だ、彼奴だよ!」
 声を潜めてミシャールは男を見据える。
 今にも飛び掛かりそうな彼女の腕を掴んで、ソルティーは病人を抱える姿を装って外へと出た。

 その後ソルティーは直ぐにハーパー達と合流し、神殿から出ると少し離れた場所に宿を決めた。
 そこでミシャールから聞いた話では、神殿で見た男は司教のルカヌスであり、現時点での最高権力者なのは判った。彼女達が捕まった時に、一度だけあの独特の声を聞いたらしい。
「わざわざあんな声の説教を聞くつもりはないし、それに金持ち信者以外には彼奴は顔を出さない事で有名だからね、まさか顔が見られるなんて思わなかった」
「もしかして顔見た事無かった訳? 良くそれで盗賊なんて出来るよね」
「あたしは鍵開け専門。情報はベリザの役目だし、行動を決めるのは兄さんの仕事だ。第一お宝の場所だけ判ってれば良い事だろ」
「あっそ……。でもどうするソルティー? せめて彼処に居るかどうかは確かめないと、策の立てようがない」
 須臾は肩を竦めてソルティーに意見を求め、ソルティーは視線をハーパーに送った。
「頼む」
「御意」
 たったそれだけの会話を交わし、ハーパーは部屋から出ていった。
 二人の完結したやり取りに残りの三人は首を傾げ、須臾が真っ先に気を取り直してハーパーの行き先を聞いたが、ソルティーの答えは「後で説明する」だけだった。
 納得のいかない須臾とミシャールを余所に、荷物の整理をし、鎧を外して身軽になると、自分も扉に向かった。
「どこ行くの?」
「買い出し」
「俺も行く!」
 ソルティーの許可もないまま恒河沙も荷物を放り出して、彼の後を追う。
 須臾は出ていった二人を呆けながら見送り、床に散乱した恒河沙の荷物をきちんと部屋の隅に運んだ。
「あ〜あ、ったく。……まっ良いか、ミシャールちゃんと二人っきりだから」
「あたしに何かしたら、あんたの股の間にぶら下がってるもんが、二度と女にぶち込めない様になるって判ってるならどうぞ」
「………」
 微笑む隙さえ与えられずに釘を差され、しょうがなく須臾は彼女と距離を取って椅子に腰掛けた。
「別に嫌がる女の子に手を出す趣味はないよ。少し聞きたい事があって、二人っきりで話をしたかっただけなんだ」
 両手を広げ、警戒を煽らない様にして須臾はそう切り出した。
「聞きたい事? なんだよあたしの知っている事は話した筈だ」
「まあそうかも知れないけど、僕には有るの。君達が産まれたのってこの国だって言ったよね? なのにどうしてオレアディス様を信仰しているの? それが少し気になってさ」
「そんな事聞いてなんの意味がある?」
「興味があるからさ。まあ一応言って置くけど、僕もオレアディス様を信仰している。でもそれは、僕がシスルの者だからで、このリグスはオレアディス様の支配地域はない。だから気になる。ジギトールのやり方が嫌でツァラトストゥラが信仰できないにしても、サティロス様やグリューメ様だって居る。なのにどうしてそこまでオレアディス様に拘るのかが、僕は凄く気になるんだ。オレアディス様を信仰し始めた特別な理由が、もしかして君達にはあるんじゃないかって」
 普段では見せない真剣な須臾の表情に、ミシャールも変な警戒は解いた。
 確かに須臾の疑問は、的を外していなかった。
 精霊神の勢力分布は誰もが知っている。
 全世界に神の恩恵はもたらされるが、神は自分の領域にしか姿を現さない。紫翠大陸がオレアディスとクシャスラの領域なら、覇睦大陸はツァラトストゥラとグリューメとサティロスが支配する大陸だ。
 特にオレアディスとツァラトストゥラは、水と火を司る対立神。とてもこの付近でオレアディスが現れるとは思えない。