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刻の流狼第三部 刻の流狼編

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 ニーニアニーの場合ならば、アストアの国王にしてアストアの源となる民、ニーニアニー・ヴァウンス・エスターとなる。
 すなわち、リーリアン王国の王にして源たる民、ソルティアス・ダ・エストリエ。
 但し名前のみでそうとして信じられはしない。だが紫翠大陸で生まれ育っても一度は耳にする、森の王アストア。その国王が直々に言うのだから、これ以上のお墨付きは有り得ないだろうし、そうでなければ助けて貰えはしなかった。
――でもリーリアンなんて国、地図に載ってなかったんだよなぁ。
 疑問は直ぐに滅びの一言で解消し、やはりニーニアニーの台詞の数々が裏付けしていた。
 擣巓で国王の子息達が一時的にリグスに身を隠したのと逆に、ソルティー達はシスルに身を隠していたとすれば、辻褄合わせになっている。
「でもなぁ……、でもそれじゃぁ後が続かないんだよなぁ」
 彼がそれらを含めた総てを隠す必要性が、どうしても見いだせない。
 もし仮に、彼等の目的が亡国の復興だとすると、それは彼等にとって大義となる筈なのだ。アストア国が認める程の血筋が在るなら、その血に次代の権力を夢見る者達が群がってくる事は間違いない。
 場所がシスルであったなら、間違いなく幕巌が傭兵団を動かしている事だろう。
 ソルティー達がそうしない理由が復興では無く、単なる敵討ちだとしても、自分達にそれを隠す理由にはならない筈だ。
 何より、そういった事が彼等の目的だとするなら、此処から先にこそ自分達の力を必要とされるべきではないだろうか。そして自分達はそう言う話なら、喜んで参加する。それこそが幕巌が求める大義だからだ。
――彼に大義がないから? でも、悪意を隠している風にも見えないし。
 そうだとしたら秩序の番人と言われている、誇り高い竜族であるハーパーが従う筈がない。
 しかしソルティーは、自分達を遠ざけようとし、理由を言わない。傭兵相手に危険を理由にする馬鹿馬鹿しさは、彼も承知している事だろう。恐らくその理由を言わない理由は、“自分達”ではなく、その中に含まれる“一人”の為なのだろうが。
 どのみち危険だからと言われて引き下がっては、傭兵として失格だ。そう簡単に須臾も手を引くつもりはない。
――問題は、ソルティーが感じる程の危険がどれだけなのかって事だけど……、あ〜〜、なんか嫌な事考えそう。
 眉間の皺に指を当てて、飛躍してしまった考えを慌ててしまい込む。
 目的地は決まっていないと言った、ソルティーの最初の言葉が気に掛かる。
 あの言葉をそのままの形で受け取れば、間違いなく復興等という単純な話ではないのだ。
 何かが起こるかも知れないが、起こらないかも知れない。それは即ち此方から仕掛けるのではなく、仕掛けられるという事なのだから、少なくともアストア以前の出来事は含まれていない筈だ。
――だったらこれから何かが起きる可能性が高くなったって事かな? でも何処でそれを知ったのかが問題?
 ソルティーが自分達を解雇するつもりで居たのは、此処に来る前だった。
――剣を手に入れる直後かな。……一寸待て、確かニーニアニー様があの剣を此処で使われたら困るって言ってたような……? う〜ん、やっぱり大変な事に首を突っ込んでる?
 考えれば考える程ソルティーがどういう人間かどうかなどは、至って小さな問題に思えてきて、須臾は気が重くなってきた。
 此処まで来て、あの剣がただの形見の品だとは、到底鵜呑みになんかしてやれない。
 一体どんな力の有る剣かは知りたいが、ハーパーはあの剣を使わせたくないと言う。
――もしかして人殺し云々なんかじゃなくて、あれ自体が問題だったりして〜〜。……って、ちょっと待てよ、まさかあの人って……。
 疑問の中に浮かんだのは、皮肉めいた笑みを浮かべるアストアの王。
「やられた……流石アストアの王様だよ」
 ソルティーとのやりとりの中に、彼はあらゆる情報を盛り込んだ。尚かつ辛辣な言葉でソルティーを責める事によって彼の意識を逸らし、同時に自分達の同情心を煽ってきたのだ。
 もしもあの場に居られなければ、同じ事を考えられはしなかった。恒河沙は言われるままに解雇に応じて、自分も従っていただろう。
「あんな子供に掌で転がされるなんて……、だけど、まぁ良いか」
 これでハッキリした。
 自分達の依頼人には助けが必要なのだ。彼自身がそれを否定しようとも、自分達には必要な大義が手に入った。
 これから何が起きるか判らないが、それはどんな人生を歩んでも同じ事。普通だと思われるような人生の中でも危険はあるのだ、その危険の回数が少し増えた所で結果さえ良ければそれで良い。
――ソルティーからかうのも面白いしね。
 さんざん悩んでも最後には笑って、須臾は新たな気持ちで大きな深呼吸をした。





「面目無い」
 ハーパーは未だに重く感じる頭部を辛うじて持ち上げて、苦しさを伝えないよう、成る可く平然とした声を絞り出す。
 呪術室に現れたソルティーの後ろには、先程まで彼と話をしていたニーニアニーと、知らせに行った事を怒られるのではないかと怯え気味の恒河沙が居た。
「元はと言えば、私が準備も無しにお前を森に連れてきたのが悪い。済まなかった」
 結界内での治療の為に、ハーパーとは距離を置いての会話になった。
 本来なら時間を掛けてゆっくりと体を森に慣らさなければ、竜族は森に入る事もままならない。今まで耐えられたのは、一身にハーパーの並々ならない精神力と、責任感からだった。
 ソルティーはハーパーの様子を確かめつつ、恒河沙に報されるまで彼の事を失念していた自分を責めた。
「否。我が不甲斐無き事故、主に責任は微塵も無い」
「そのまま責任の奪い合いを続けるつもりか?」
 此処で止めなければ、何処までも同じ事を繰り返すと思ったニーニアニーの言葉に、ソルティーは言い返そうとした口を一端閉じ、一度息を吐き出してから別の言葉を言う為に口を開いた。
「ああそうだったな。しかし、ハーパーがこうなったのは丁度良い」
「あ、主」
 倒れた事をあっさり肯定されては、如何にハーパーであろうとも焦る。ソルティーは思わず自分の口を手で覆った。
「済まない、言葉を誤った。実はニーニアニーの助けがあって、カラの件は無事に終わらせられる目処がついた。だから無理をして森に留まらなくても良くなったと言いたかっただけだ。――私はこの森を抜けて行くつもりだ。お前は一端先に森を出て、体調を回復すれば」
 付け足しの様な説明を殊更真面目に話し、最後まで捲し立てる気で居たが、それは後ろから服を引っ張られて中断させられた。
「私はって……俺も行くの忘れていないか?」
 振り返ると微かに頬を膨らませる恒河沙にソルティーは苦笑する。
「そうだったな、私達の間違いだ」
 安心させようと恒河沙を自分の横に立たせ、再度ハーパーに顔を向ける。
 その彼は、ソルティーだけが判る微妙さの不満を浮かべていた。
「しかし、エスター様には申し訳ありませぬが、この森とて総てに於いて安全とは言い難い。我はとても遠くにて待つ事は出来ぬ。もう暫く我に時間を戴ければ、必ず……」