刻の流狼第二部 覇睦大陸編
流石に顔を傷物にされた須臾も、今日ばかりは彼女の味方ではいられない。勿論それは、ここで彼女を逃がせば大幅な減俸が待ち受けているだろうからであるが。
「そんなぁ、あたしにとってグルーナ様との時間は、幾らあっても足りないわ」
「あっそ」
「はぁ……でも本当に剣士にでもなれば良かった。そうすればグルーナ様のお役に立てるし、一緒に旅も出来るのに。それか、術者の才能でもあれば良かったのかなぁ? もっと人生を選べば良かった」
惚気の次に愚痴となったミルナリスの腕を二人は放したくなる。
このまま彼女の話を延々聞かされる位なら、いっそソルティーに怒られた方がマシかも知れない。
だがやはりその後が色々とやばそうなので、気持ちを新たに手に力を入れる。
「まあそう言わず、必ずソルティーは帰って来るんだから。それに、ミルちゃんが剣士になってソルティーに雇われたら、僕達解雇だよ」
「うう〜ん、そっかぁ。しょうがないなぁ。そうだよねぇ、今更無理だし、あたしはやっぱり踊りが好きだもんね」
「そうそう、やっぱりミルちゃんは踊っている方が一番生き生きしてるよ。恒河沙もそう思うよね?」
調子を併せろと恒河沙に目配せし、慌てて須臾の言葉に恒河沙も乗る。
「うん。ミルナリスの踊りは楽しくて好きだ」
「ありがとう! 今度二人の為に踊って上げる。――だからこの手を放して!!」
「駄目」
「無理」
「ああん、意地悪ぅ〜〜。じゃあ、せめて向こうのグルーナ様のベッドに寝かせて?」
あくまでもソルティーに拘るミルナリスを、二人は呆れた顔で見つめ、その後声を揃えてこう言った。
「「だーめ」」
episode.13 fin
作品名:刻の流狼第二部 覇睦大陸編 作家名:へぐい