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刻の流狼第二部 覇睦大陸編

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 彼女の知りたいソルティーの好みなど、殆ど二人は知らないのだ。知る必要が無い事も理由の一つだが、実際剣以外の事で、彼が自分達の様に何かに拘っている姿を見せた事はない。
 特定の物事に執着しない彼の好みなど、どちらかと言えば二人の方が聞きたい位だ。
 それでもミルナリスはへこたれない性格なのか、暫くすると何かを思いついて二人に話かける。
「んじゃぁ、ああ…でも…、これ聞いちゃったら、あたしやばいかなぁ……」
「ん? なになに?」
 もう半ばやけくそで須臾はミルナリスに付き合っている様だ。
「彼の、こ・の・み。ねぇ、どんな子が好みかな? 優しいとか、気だてが良いとか、可愛い子が良いとか? 男同士なんだから、そう言う話一回くらいしてるよね? ああん、もし元気で明るくて、可愛い子なんて言われたらどうしよう!」
 一人自分の世界に旅立ってしまったミルナリスを、須臾は複雑な表情で見つめる。
 既に半分彼女の事は諦めているのだが、彼女の様な女性は初めてで、その新鮮さが諦めきれない。
「ねぇ、どうなの?」
 再度聞かれ、須臾の心に誘惑が産まれる。
「実は……とても言いにくい事なんだけど、ソルティーは幼児趣味なんだ。成人したてのまだ幼い子供にしか興味がないらしくて。ミルちゃんには悪いけど、君みたいな大人の女性には彼は……」
――幾らなんでもこれで諦めるよね。
「幼児趣味……」
 流石にこの事実には衝撃があったのか、ミルナリスはがっくりと肩を落とし俯いてしまった。
「須臾……それって何?」
 恒河沙も驚いたのか須臾に向かって疑いの眼差しを送る。
「ええっと……大人の女性よりも、子供が好きな人のこと」
「本当?」
「うん、本当」
――僕の中ではね。
 最高に嬉しそうな笑顔で自信満々に教え、心の中に勝ちを予想する。
「ウフ……ウフフフ……フフ…」
 須臾が一人浮き立つ気持ちを抱えだした頃、不気味な笑い声が二人に聞こえた。
「フフフフフフフ」
 見るとミルナリスが俯いたまま肩を小刻みに震わせていた。
 そして、
「挫けないわ、挫けるもんですか! こんな事くらいで挫けてたまるもんかっ! そうよ、グルーナ様は女の良さを知らないだけなんだ。だからそんなねじ曲がった趣味を持つようになったに決まってるっ! 頑張るのよ、頑張るしかないわっミルナリス!」
 意地と根性と不屈さが彼女には備わっている様だ。
 顔を上げ、大きな瞳を更に大きくし、握り締めた拳をテーブルに叩き置く。
「あたしがその悪癖、治してやろうじゃない!」
 ミルナリスにとって須臾の考えは浅知恵にしかならなかった。いや、それ以上に彼女に闘志を抱かせるだけになり、須臾は敢え無く惨敗した。
 須臾が自分の作戦に失敗している横で、恒河沙はひたすら頭を悩ませていた。
 とにかく今まで聞く機会が無くて、ずっとミルナリスの質問に適当に答えていたが、やっと自分に時間が回ってきたかなと口を開いた。
「なあ、恋人って何?」
 聞いた後恒河沙が首を傾げたのだが、それは自分を見つめる目が異様だったからだ。
「なあ、何? 好きだと恋人になるの?」
 至って真剣に聞いたのに、どうしてか見渡せる限りの人々が笑いを堪える様な表情か、既に笑いだして居るかのどちらかだった。
「恒ちゃん、君何歳?」
 その中でミルナリスだけが笑わずに聞き返してくれた。
「……十五」
「お前ねぇ、もう十六になってるだろ」
「んじゃ十六」
「頭の中身は四歳だけど」
 須臾の茶々に肘鉄を食らわし、もう一度ミルナリスに聞いてみる。
 しかし答えが出るまでに暫く掛かった。
 首を何度も捻り、腕組みをして、ミルナリスは真剣に、目の前で疑問を抱える子供へ分かり易い答えを捜そうとしてくれた。
「うん、判った。恋人って言うのはね、私の好きって言う想いが一杯詰まった人が、自分に対してもそう思ってくれる人の事」
「彼女とは違うの? 村に居るとき、須臾は一杯彼女が居たけど、みんなに好きって言ってた」
 なんとなくだがミルナリスの言いたい事は判る様な気がするのだが、そうするとまた別の疑問が沸き上がる。
「……なんでこんな所で言うんだよ」
 一方、こんな所で自分の軽薄さをばらされた須臾は、テーブルに額を擦り付け嘆くしかなかった。
「う〜ん、難しいなぁ。多分、好きの大きさが違うんだと思うよ」
「どう違うの?」
「……ますます難しくなっていくなぁ。考えたこと無かったなあ、一寸待ってね、少し考えるから」
 そう言ってミルナリスは腕を組み直し目を閉じて考え込んだ。
 ミルナリスの真剣な姿を見ながら、恒河沙は自分の好きと、彼女の好きの差が知りたかった。
 自分が感じる須臾とソルティーへの好きが違うのは、何となくだが感じている。けれど、それがどういう意味なのか理解できない。
――俺だってソルティーの事好きなのに……。
 自分が言えない事を、あっさりと口にしたミルナリスに少しだけ腹が立つ。けど、今自分の為に、笑わずに考えてくれる彼女を、少しだけ好きだと思う。
「やっぱり難しいなぁ。あんまり良い答え見つからない。例えばさあ、ただ好きな人だと嫌いな所って、やっぱり嫌いで許せないよね、でも恋とかの好きって許せるの。相手がとても悪い人でも、その人の悪い所も悪いって判ってるのに好きになってしまうの。……でも本当は、ここで感じるから」
 そう言ってミルナリスは自分の胸に手を当てた。
「初めて見たときここにね、ズシンと来たの。好きだ、一緒にいたい、護ってあげたい、一つになりたいって、ここで感じたの」
 静かに語るミルナリスは、踊っている時よりも綺麗に見えた。
――本当にソルティーの事好きなんだ。
 確かにそう伝わってきた。
――でも、どうして俺と同じ事考えてるんだろう?
「一回会っただけでそうなるの?」
「人それぞれ。何度も会う内にやっと気付いたり、たった一度でもそう思えたり。日にちや回数なんか関係ないよ、ほんの一瞬でもその時に好きになったら、もうそれだけ」
「ミル……」
「アハハ、やだ、なんからしくないこと言っちゃったなぁ。この事はグルーナ様には内緒だよ」
 照れ笑いを浮かべながら、人差し指を口に当てて二人に言う。
「どうして?」
「だって、恥ずかしいじゃない。女の子はこんな言葉は心の中でそっと呟く物なの」
 そう言ってミルナリスは片目を閉じる。
 ミルナリスの事を好きになれるかはまだ判らないけど、嫌いにはなれないと恒河沙は思う。しかしその反面、折角無くなっていた筈の胸のもやもやが、再び沸き上がり、苦しさが増してくる。
「そう言えばさあ、みんなどこに泊まってるの? もうそれくらい教えてくれても良いでしょ? まっ、教えて貰えなくても、二人の後を付けるくらいするけど」
「……クランサ」
 ミルナリスの事だ、尾行をまいても片っ端から宿屋を捜す位はすると簡単に想像でき、ソルティーには悪いと思いつつ、半分恨みを返すつもりで須臾は教えた。
「ありがとう! 今日はおごらせて貰うね」
「それは遠慮しておくよ」
「どうして?」
「昨日の恒河沙の食べた金額、60ソフル越した。奢ると破産するよ」